ヴァイオリン製作は非常に難しいです。
木材からmm単位で削り出し、各工程取り返しがつかない作業と戦いながら作品を仕上げていきます。
世の中には様々なクラフト系の趣味や職業が存在しますが、ヴァイオリン製作に匹敵するほど難しい「もの作り」はなかなか存在しません。
しかし、その難しさがあるからこそヴァイオリン製作は楽しいのです。
目次
一生続けられるヴァイオリン製作の奥深さ
私はこれまでに「手作り時計・レザークラフト・ウェディングブーケ」など、様々なクラフト系の趣味に手を出してきましたが、ヴァイオリン製作の難しさは別格です。
大半のクラフト系趣味は基礎的な製作技術を学び、あとは数をこなしながら徐々にオリジナリティーを出していきます。最初は下手でも同じ工程を繰り返すことで、自分の体に自然と技術が染み込んでいくわけです。
ヴァイオリン製作に関してもそれは一緒なのですが、1つの作品を完成させるまでの時間が桁外れです。
作る人の性格やペースにもよりますが、1本(本来1艇と呼ぶ)作り上げるまでに週1回工房に通っても約2年ほどかかります。
そして、1本作り上げたところで技術が体に染みつくには至らず、プロの作品と比較すると全く完成度の低いヴァイオリンが生まれます。
他のクラフト系趣味ならば、2年も続けていればかなり技術が身についていると思いますが、ヴァイオリン製作は最初の1本を作り上げた時点がスタートラインのようなものです。
2年間の間で道具の扱いには徐々に慣れてきますが、まだまだ細かな精度は低レベル。ドラクエを例にすると最初の洞窟をやっと抜けて初めて城にたどり着いたくらいのレベルです。
つまり奥の深さが尋常ではありません
真にヴァイオリン製作を知ろうとすれば演奏も上手くなりたいと思いますし、音響学に対する理解も深めたい。さらに海外の参考書を読むために英語の勉強したいですし、道具の扱いについてもどんどん知識を蓄えたいです。
ただでさえ、製作工程や技術を身に着けるだけでも大変なのに、極めようとすると他にもやることが盛りだくさんです。
おそらく一生作り続けていても飽きることはないでしょう。
自分がしょぼいと思えるから楽しい
ヴァイオリン製作は上手くいかない事が多くて歯がゆい思いをします。「削りすぎてしまった、、」「この部分がカッコ悪くなってしまった。。」「寸法が、、、」など、言い出したらキリがありません。
いかに自分がしょぼいか思い知らされます。
しかし、少しづつですがレベルアップしていく実感は毎日を楽しくしてくれます。
何をするにしてもイージーモードはつまらないです。ゲームでも簡単にレベルが上がって無双状態になるよりもギリギリの攻防を繰り広げている時のほうが面白いです。
またドラクエで表現しますが、「ギガスラッシュ・ベホマズン・ビッグバン」といった強いスキルばかりになる物語後半より、序盤の「鋼の剣・ベホイミ・スクルト」といった武器・魔法を駆使して戦っていた時期の方がゲームとして面白かった記憶はありませんか?
ヴァイオリン製作はやることや覚えることが多く、スグに上級者になれることはありません。寧ろ一生下手なままかもしれません。
気分的には「鋼の剣・ベホイミ・スクルト」時代の「まだまだこれから!」感をずっと味わえるため、人生にメリハリが生まれます。
それに自分がしょぼい存在であり続けられるために、いつまでも謙虚な気持ちでいられるのもメリットです。人間自分が上、偉いと思い上がり始めると次第に横暴になっていくので。
流行に左右されない伝統的な技術
ヴァイオリン製作の技術は1550年から存在している伝統的な技術です。数々の傑作が生みだされたストラディバリやデルジェスの時代から使う道具や工程は殆ど変わってはいません。
現代においては機械をつかって自動で作れるのでは?と思われがちですが、木にはそれぞれ性質があるため、厚みや削り方が一つ一つ異なります。そのちょっとした違いは機械によって判別することができないので、今尚ヴァイオリン製作は手工業が基本です。
工場で作られている中国製のヴァイオリンであっても、中国人の作業員によって一つ一つ手作業で作られています。ただ、「裏板製作専門」「ネック製作専門」「表板製作専門」といった各工程ごとに作業員が割り当てられているので、1人で全てを作っているわけではありません。
中国の工場では作る本数が圧倒的に多いため、一つ一つの作業を大雑把にこなさなければなりません。そして大雑把に作られたパーツは最終的に合体させられ、安い中国製ヴァイオリンが完成します。
やや話が脱線しましたが、ようはヴァイオリン製作の技術は伝統的な手工業であり、生涯現役で使える技術なのです。
現代社会では様々な娯楽や技術が生まれては廃れるが繰り返されています。
例えばアドビ社の「Flash」。WEBの世界に革新をもたらしたこの技術も現在は過去の産物になってしまいました。
折角身に着けたスキルも世の中で必要とされなくなれば意味を持たないものになってしまいます。
しかし、ヴァイオリン製作のスキルは生涯現役で使えます。頑張ってレベルを上げたスキルは消えることなく有効です。(少なくても今現在は)
流行に流される技術ではないため、安心して奥の深い世界へ進んでいけることもヴァイオリン製作の魅力だと思います。
最後に
ヴァイオリン製作は空いた時間で手軽に楽しめる趣味ではなく、生涯をかけて完成度を追求していく手軽さとは正反対をいく本格的な技術です。
趣味で続けても、プロとして活動するとしても、非常に敷居が高いモノであることは間違いありません。
しかし、だからこそヴァイオリン製作は面白いのです。
世界的にヴァイオリン製作家は高齢化が進んでいますが、どなたも現役で素晴らしい作品を作り続けています。年齢を重ねても長年培ってきた感覚は失われませんので、高いモチベーションをもったまま人生を楽しむことが出来るはずです。
どこまで作品と技術のレベルを上げられるか。ゲームの主人公のようなレベル上げ人生も一興だと思いませんか?
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