フランス音楽はロマン派後期から近代音楽に入る時代にかけてフランスにて発展した音楽であり、ドイツ・オーストリアで発展してきた音楽とは一線を画す個性を持ち合わせます。
日本の音楽シーンでは頻繁にコンサートで演奏されるジャンルではありませんが、その独特な音の使い方からクラシック音楽はフランス音楽しか聴かないというコアなファンも多いです。
今回はクラシック音楽史においての『フランス音楽』について紹介いたします。
フランス音楽と中欧の音楽の違いがよくわからないという方に少しでもフランス音楽がどんなものか伝われば幸いです。
目次
フランス音楽とは?
フランス音楽はその名の通りフランスで作られた音楽の事なのですが、クラシック音楽史的にはラヴェル・ドビュッシー・フォーレといった作曲家が活躍した印象派主義の時代の事を指すことが多いです。
この時代はバッハ・ベートーヴェン・ブラームス・シューマン達によって作られた伝統的な「ドイツのクラシック音楽」に疑問を感じた作曲家たちが新しい音楽の形を模索した時期であり、これまでにない音楽性が展開されました。
そのため、クラシック音楽史としてはフランス音楽はかなり後半に登場した音楽ということになります。
バッハやモーツァルトたちの時代からすると、非常に現代に近い時代に作られた曲だということを理解しておきましょう。
フランス音楽が生まれた背景
バロック時代のバッハから始まり、古典派ベートーヴェンを経由し、シューマンやブラームスといったドイツロマン派へと進化を遂げてきたクラシック音楽。
その歩みからは「対位法」「古典的和声」「ソナタ形式」といったあらゆる伝統的な決まりが生まれました。
伝統的なドイツクラシック音楽では、定められた決まりのなかで「人間の心の奥底に触れることを目的」とした音楽が作られ続けたわけですが、人によってはその堅苦しさ、束縛感が好きになれない者もいました。
そして、生まれたのが民族主義音楽の風潮です。
この風潮は伝統的なクラシックよりも、自分の国の音楽を大切にした音楽を作ろうよ!という風潮であり、ロシアではムソルグスキーやリムスキーたちが、チェコではスメタナ、北欧ではシベリウス・フォーレといった作曲家がそれぞれの国の特徴を取り入れた音楽を生みだしました。
フランスも他国と同様にドイツ音楽とは違った音楽性が展開されていったわけですが、芸術の国フランスでは他の国とは特色が異なる音楽性が展開されてきます。
フランス音楽の世界観
ドイツの音楽は「深く・渋く・重い」といった言葉がシックリくる音楽性であり、音楽によって心の深いところを表現するディープな世界です。
その深さこそドイツ音楽の良いところなのですが、ベートーヴェンやシューマンが書いた曲のように、「苦悩」が表現された音楽=素晴らしい!のような雰囲気が重苦しく感じることがあるのは否めません。
フランスの音楽性はその「重さ」を良しとせず、文学や絵画のように気楽に鑑賞できる音楽を目指しました。
そして生まれたのが、フランスならではの「繊細であり、ぼんやりとした世界観」です。
フランス音楽はドイツ音楽の真逆の性質を持ち、クラシック音楽ファンからは賛否両論があるジャンルです。
古典派やドイツロマン派のファンの中にはフランス音楽を「芯のないぼんやりしすぎた音楽」だと批判する方もいますし、伝統的な和声が崩れた不協和音がイヤだという方も多いです。
ただ、逆にそれが良いという方も多く、堅苦しくなく絵画のように繊細に佇むフランス音楽を好むコアなファンも多数います。
どちらが好きなのかは個人の好みなので深く追求しませんが、ここで大事なのはドイツ音楽とフランス音楽は対のような存在であることです。
どちらもクラシック音楽という括りですが、曲の雰囲気や解釈はだいぶ違うことを理解しておくと良いかもしれません。
フランス音楽の系譜
フランス音楽が注目を集め始めたのはロマン派時代においての「ベルリオーズ」の活躍からです。
ベルリオーズは他の文学と物語を題材として音楽を創り上げる「標題音楽」を発展させ、ドイツ作曲家の音楽によってすべてを表現する「絶対音楽」に対して新たなる価値観を提示しました。
また、ベルリオーズは1871年に国民音楽協会を設立させ、フランス独自の器楽、室内楽の推進にも貢献しています。
この時点からフランスは音楽と他の芸術を結びつける方向性へと進みはじめました。
その後、古典的な和声を好んだ保守的な「サン=サーンス」、伝統と革新をバランスよく取り入れた「フォーレ」、これまでの音楽を壊しにかかった異端児「サティ」が現れ、そして彼らの音楽を取り入れた「ドビュッシー」「ラヴェル」が印象主義音楽を創り上げました。
フランス音楽の特徴
フランス音楽の特徴はガッチリした音楽ではなく、風景に漂うかのような朧気で儚げな曲が多いです。
そして、その雰囲気は独特の「フランス和声」と「調性感の無さ」から作り出されています。
古典派時代に生まれた伝統的な和声は3和音が基本です。
現代のコードで表すと「Cメジャー(ド・ミ・ソ)」のように「3つの音」で成り立つ和音が曲に多用されるのが伝統的な和声学を用いた曲です。
3和音のコードは明瞭に響く協和音程であり、他の音と良く調和します。
対してフランス音楽で主に使われている和声は4和音が基本です。
現代のコードで表すと「Cメジャー7(ド・ミ・ソ・シ)」のように「4つの音」で成り立つ和音が曲に多用されます。
ルート音から数えて7つめの音を加えた和音はセブンスとよばれ、基本的には不協和音に該当します。ただ、セブンス和音は明瞭さと調和は基本3和音に劣りますが、音に繊細さや浮遊感が加わります。
また、「7音」に加え、ルートから数えて「9音・11音・13音」という伝統的和声では取り入れられなかった和音もフランス和声では積極的に取り入れられてます。
これらの音は現代のジャズやポピュラーでも使われるオシャレサウンドを構築する「音のスパイス」であり、音の高級感を高める作用をもつ音です。
このように、伝統的な和声とフランス和声では音の構成音が大きく異なっており、それに伴い曲の雰囲気も大幅に違います。
尚、フランス和声は調性が自由化していることも特徴です。
古典派の時代に完成した伝統的な音楽は主に短調長調の12調から成り立つ音楽でした。特にソナタ形式では「この調から始まった曲はこの調を経由してこの調に戻ってくる」といったルールが厳密に定められているケースが多いです。
しかし、フランス音楽はそのような形式や調性感をとっぱらった曲が多く、調性が行ったり来たり、寧ろなかったりすることがザラです。
楽譜を見ると一目瞭然ですが、フランス音楽の譜面は臨時記号だらけでかなり読みづらくなっています。
これこそ調性感の無さの表れであり、ドイツ音楽との大きな相違点です。
書店で和声学の本が売っていますが、あれは伝統的な古典和声の本です。実はフランス和声学を学ぶシャランという本もあるので、作曲に興味がある方は一度手に取ってみるのも面白いと思います。
フランスの作曲家と代表曲
この記事の締めくくりとして、有名フランスを紹介します。個別記事も用意していますので、ぜひドイツ音楽との違いを体感してみてください。
ベルリオーズ
指揮者・作曲家としてロマン派時代に活躍したフランス作曲家。
標題音楽のパイオニアでもあり、音楽の新しい在り方を切り開きました。
フランス10フラン紙幣の肖像画に採用されることもあった有名人です。
音楽家の中では珍しく、ピアノが弾けなかった人物としても知られています。
参考記事:幻想交響曲を作り上げたベルリオーズの生涯
サン=サーンス
フランス音楽界の大御所ですが、作り上げる曲は古典的な技法を駆使したドイツ音楽に近い曲というアンバランスな作曲家。
神童として崇められた紛れもない天才ですが、フランス国民からは絶望的に古臭い曲と呼ばれた不遇な人物です。
フォーレ
サン=サーンスにピアノと作曲を師事し、フランス国立音楽学校の作曲家教授としてモーリス・ラヴェルを指導した経歴を持つ「橋渡し役」を果たした作曲家。
美しい室内楽曲をメインに作曲しましたが、大曲を残さなかったため、現代では地味な扱いです。
参考記事:室内楽曲が好きならガブリエル・フォーレを知ってみよう!
サティ
印象主義どころか無調を通り越して現代音楽への道を切り開いた音楽界の異端児。学生の時に作曲したジムノペディが有名ですが、そのあとは無調へと進み、やがて彼の楽譜からは調合や小説線すら消えました。
「犬のためのぶよぶよした前奏曲」といった個性的すぎるタイトルの曲を多数作り上げたことでも有名です。
フランス音楽の作曲家というよりも、現代音楽の作曲家ですが、ドビュッシーやラヴェルの印象主義音楽に大きな影響を与えています。
ドビュッシー
フランス作曲家として最も有名なのはドビュッシーです。彼が残した「月の光」「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク」といった繊細で美しい曲の数々はピアノ愛好家から絶大な人気を誇ります。
ただ、それらの曲はどれも前期の曲であり、後期になると曲調がかなり無調に使づいています。
そのため、一般的にフランス音楽として認識されているのは前期の曲までです。
参考記事:美しきピアノ曲を残したドビュッシーの生涯
ラヴェル
ドビュッシーと双璧を成す超有名フランス作曲家。「水の戯れ」「亡き王女のためのパヴァーヌ」が人気です。
ラヴェルはドビュッシーとよく比較されますが、ドビュッシーは革新派であり、ラヴェルは割と古典的な技法を好む保守派であったという差があります。
また、ラヴェルはオーケストラの魔術師と呼ばれるほどオーケストレーションの実力に長けていた人物でもあり、現在でも作曲家の教科書として高い評価を得ています。
ビゼー
ビゼーは主にオペラ分野で活躍した作曲家です。
ピアノの演奏技術に長けていたビゼーは9歳でパリ音楽院に入学し、19歳でローマ大賞に輝くなど、コンクールで輝かしい成績を残しました。
音楽卒業後はオペラ作曲家として活動し、「真珠採り」「アルルの女」「カルメン」といった有名なフランスオペラを手がけ名声を得ますが、敗血症のため36歳の若さでこの世を去ります。
その他のフランス作曲家
【シャルル・グノー】
フランス近代歌曲の父と呼ばれ、色彩感に満ちた歌曲の数々を残しました。代表曲は『賛歌と教皇の行進曲』。劇音楽、歌劇も多数手がけており、コチラではオペラ『ファウスト』が有名です。
【レオ・ドリーブ】
フランス・バレエ音楽の父と呼ばれ、優美で繊細な舞台音楽を残しました。
【ポール・デュカス】
ドビュッシーと親交のあった作曲家。音楽家としてより評論家として活躍した人物であり、400を超える評論を執筆しました。
構造的なドイツ音楽に印象派としての斬新さを取り入れた交響的スケルツォ『魔法使いの弟子』が一番の有名作として残っています。
など
最後に
日本のクラシックシーンではドイツ音楽が演奏される機会が多いため、フランス音楽はあまり注目されていない存在です。
しかし、美しく繊細なフランス音楽は重厚なドイツ音楽とは異なる魅力があります。
これまであまりフランス音楽に興味をもってこなかった方も、この機会に是非フランス音楽を聴いてみてはいかがでしょうか?
意外とハマってしまいかもしれませんよ?
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