私たちが良く知るメロディー+伴奏の音楽はバッハやヘンデルが生きたバロック時代に生まれた音楽です。(ホモフォニー)
しかし音楽はその前の時代から存在しており、14世紀〜16世紀にはルネサンス音楽が、さらに前の4世紀〜14世紀には中世西洋音楽が親しまれてきました。
今回は音楽の原点ともいえる「中世西洋音楽」について簡潔に説明します。
中世西洋音楽の歴史
中世西洋音楽は4世紀〜14世紀にヨーロッパで発展した音楽です。
ルネサンス音楽が生まれる前の音楽であり、教会音楽として進化を遂げました。
グレゴリオ聖歌とオルガヌム声部の誕生
中世西洋音楽は4世紀頃に生まれたとされていますが、実際に音楽として発展を遂げたのは7世紀にローマ・カトリック教会にてグレゴリオ聖歌が誕生した時です。
当時はまだ単旋律だけの音楽で、楽譜もありませんでした。
そのため人々は音楽を口頭で伝え、後世に残していったとされています。
9世紀頃になると紙に線を書くことにより音楽を伝承する楽譜の元祖が生まれ、次第に「音楽」が普及し始めます。
その後9世紀〜12世紀にかけては「オルガヌム声部」という単旋律の対となるメロディーが加えられるようになり、単純明快な音楽は単旋律音楽は2つの旋律を持つ多声音楽に少しづつ進化を遂げることになります。
ただ、この「オルガヌム声部」というものは現代から見ると少し異質な存在で、なんと主旋律の上の旋律として定着したのです。
オルガヌム声部は最初は主旋律の下に置かれ、4〜5度下の旋律を歌いましたが、10世紀以降は徐々に主旋律の上に置かれるようになります。
これは主旋律の強化を目的としたものでり、以降の時代に発展するポリフォニー(多声音楽)の基礎となりました。
オルガヌム声部が4声音楽に進化
「オルガヌム声部」による2声音楽の時代は12世紀まで続き、やがて教会が絶大な権力を握る時代が到来したことをキッカケに4声に進化します。
ちなみにオルガヌム声部を4声に進化させたのはノートルダム楽派のペタロンとレオナンという人物です。
彼らによってミサの形式は確立され、4声による声楽曲の歴史が始まります。
ただ、この当時の声楽曲はリズムも拍子も対位法も全て曖昧で、決して誰もが楽しめる音楽とは呼べませんでした。実用的な楽器も楽譜もないため、まだまだ現代の音楽には遠く及びません。
トルバドゥールとトルヴェールの登場
11世紀後半になると宗教音楽だけでなく世俗音楽も少しづつ浸透し始め、トルバドゥールとトルヴェールという吟遊詩人(歌手/作曲家)が現れます。
トルバドゥール:中世のオック語抒情詩の詩人。騎士道と宮廷の愛をテーマにした詩を書いた。主にイタリア周辺で活躍。
トルヴェール:北フランスに渡ったトルバドゥールが独自に変化を遂げたモノ。アーサー王物語や騎士道物語を広めたフランスのクレティアン・ド・トロワが代表格。
トルバドゥールやトルヴェールのイメージはRPGなどに出てくる吟遊詩人をイメージしてもらうと分かりやすいです。
身分は貴族や騎士の人間が多く、上流階級向けの音楽を創り上げました。
ちなみにトルバドゥールやトルヴェールが使用した楽器はリュートやハープ類。
形や構造は現代の弦楽器とは異なりますが、これらの楽器を使って世俗的な詩を伝承させていきました。
脱宗教音楽からルネサンス音楽へ
13世紀に入りノートルダム大聖堂が完成したころ、記譜法(アルスノヴァ)がやっと発展し、音楽は次のステップへ進みます。
また、モテットと呼ばれる教会のためではなく芸術の為の音楽がこの頃から意識されるようになります。
14世紀になると教会の権力が衰え始め、ギョーム・ド・マショー(1300頃〜1377)というフランスの作曲家により、脱宗教音楽への流れが加速します。
シンコペーションや対位法への意識、音の響きへの考え方がより芸術的になり、やがて訪れるルネサンス音楽への礎となりました。
ただ、この時代はまだ識字率も高くなく、音楽がごく一部の人だけのモノでした。また、作曲家としての地位も確立されていなかったため、誰が作ったかわからない曲が数多く存在します。
ちなみに、この時代は今でいう綺麗なハモリである3度(ド-ミなど)の音が良しとされず、硬い響きとなる5度(ドーソなど)が正義とされていました。
3度の美しい響きは不協音として認識されてたというわけです。
中世音楽で活躍した楽器
中世では管楽器や弦楽器の原型とも呼べる楽器は数多く生まれましたが、実用的な楽器は殆ど存在しませんでした。
ただ、オルガンやハープ、リュートに関しては既にある程度使用に耐えうるものになっており、伴奏で使われることもありました。
パイプオルガン
オルガンは紀元前264年に水力によって空気を送り込むことで音を鳴らした「水オルガン」を起源とする歴史の古い楽器です。
私たちが良く知るパイプ式のオルガンは9世紀ごろから開発が始まり、13世紀ごろに教会の楽器として確立されました。
以降、教会音楽に欠かせない伴奏楽器として活躍し、バロック時代にはソロ楽器としての高い地位を得ます。
ハープ
最も古いハープは紀元前4000年のエジプトと紀元前3000年のメソポタミアで誕生したとされています。
その後、中世の時代には「音量を増やすための響鳴胴」「音程を安定させるために前柱」が備わり、現代でいうアイリッシュハープが流行しました。
竪琴(リラ)を中心に派生的な楽器も多く存在し、中世における定番楽器として音楽の発展に貢献します。
リュート
リュートはもともとサーサーン朝ペルシアから伝わったアジア系の楽器であり、中世においては十字軍によって中東からもたらされたと言われています。
ルネサンス以前のリュートは殆ど残されていませんが、4コースまたは5コースを持つ楽器だったとされています。
総括
中世西洋音楽はまだまだ庶民が楽しめる音楽とは程遠いものだったといえます。
リズムも拍子もまだ不明瞭であり、芸術性に乏しいものでした。
ただ、単旋律のモノフォニー音楽が多旋律のポリフォニー音楽に進化したことはこの時代の功績といえます。
余程のモノ好きでなければ中世の音楽を掘り下げる必要はないですが、音楽の進化の過程として「中世西洋音楽」という時代があったことは覚えておいても良いでしょう。