ルネサンス音楽は1400年頃から1600年頃までの期間に発展した音楽です。
一般的なクラシック音楽史はバロック音楽(1600年〜1750年)から始まっていますが、実はその前の時代に該当するルネサンス音楽もマニアックですが注目を浴びています。
そこで今回はルネサンス音楽がどのような音楽であったのかについて簡潔に掘り下げていこうと思います。
ルネサンス音楽とは?
そもそもルネサンスとはなんなのか。まずはそこから始めてみましょう。
ルネサンスは「再生」を意味する言葉で、1400年頃から1600年頃に起こった古代ギリシャ・ローマの復興を目指した文化運動です。
絵画や彫刻といった芸術を中心に、主にイタリア(フィレンツェ)から周辺諸国に広がっていきました。
ただ、「音楽」に関しては他の芸術程「古代の復興」に趣が置かれていなく、「ルネサンス音楽」はルネサンス期に作られた音楽という括りで認識されるのが一般的です。
古典派・ロマン派・印象音楽などに見受けられる絶対的な特徴はなく、中世西洋音楽とバロック音楽の狭間の音楽として認識されています。
ルネサンス音楽の特徴
ルネサンス音楽の特徴は「フランス:複雑なリズム」「イギリス:3度6度のハーモニー」「イタリア:メロディアスな旋律」というヨーロッパ各国から生まれた要素を含んだ複数の声部からなる「ポリフォニー音楽」であること。
ルネサンス以前の中世西洋音楽に比べると、より芸術性の高い音楽に昇華していることを特徴とします。
ポリフォニー音楽
複数の独立した声部(パート)からなる音楽のこと。主旋律・伴奏といった区別は無く、どの声部も対等に扱われる。
尚、この時代は器楽がまだ発達していなかったため、声楽(宗教曲)がメインです。まだまだ現代の音楽とは程遠く、中世にて発展した宗教声楽がパワーアップしたモノとザックリ理解しても構いません。
また、ルネサンスは15世紀を前期、16世紀を後期として分類することができ、それぞれに異なる特徴を持ちます。
ルネサンス前期(15世紀)の特徴
1400年代に入ると教会の権力が衰え、商人の力をもつようになります。
市民でも良い暮らしができる時代が到来し、本格的なルネサンス文化が開花しました。
この時期から作曲家は宗教音楽の作り手ではなく、「芸術家」として自らを名乗る者が増え始め、中世の時代に比べて音楽家の地位が高まります。
それまでは「音楽=芸術」という認識が薄く、作曲家は職業として確立された存在ではありませんでした。しかし、ベルギーやフランス北部周辺から「フランドル楽派」と呼ばれる作曲家たちが現れ、次第に芸術性を意識した曲作りが始まります。
フランドル楽派はヨーロッパ全体で支配的な地位を占めるようになったルネサンス最大の楽派です。
「ヨアンネス・オケゲム」「ヤコブ・オブレハト」「ジョスカン・デ・プレ」といった作曲家を中心に次の時代を担うバロック音楽への橋渡し役を担いました。
特にジョスカン・デ・プレの作品は歌詞に趣が置かれた芸術性が高い作風であり、マドリガーレやシャンソンといった世俗音楽の普及に貢献します。
中世の時代は音楽に芸術性が求められていなかったため、重々しかったり、音が尖っていたり、決して聞きやすい音楽とは言えませんでした。
しかし、フランドル楽派の曲は「優美」や「静けさ」といった芸術的な要素が含まれており、これまでの音楽の常識が覆ります。
また、この時期の音楽は和声が強く意識されたポリフォニー音楽です。旋律や歌詞よりも和声の美しさが重視されています。
ルネサンス後期(16世紀)の特徴
ルネサンス後期は印刷技術の革新と器楽の発展により、これまでとは違う発展を見せます。
まず、印刷が簡単に行えるようになったことにより、楽譜が誰にでも手に入るようになりました。
これによりフランドル楽派の音楽様式は音楽家のみならず庶民にも普及。作曲家・音楽家の地位は上がり、ヨーロッパ各地からあらゆる楽派が生まれました。
やがて、フランドル楽派の音楽が保守的と呼ばれる時代になったころ、イタリアのローマ楽派とヴェネツィア楽派と呼ばれる楽派が台頭し、ルネサンス音楽に影響を与え始めます。
ローマ楽派:伴奏のないア・カペラの教会音楽を特徴とする楽派。保守派だが、旋律と和声との完全な融和をもたらし、バロック音楽への発展に影響を与える
ヴェネツィア楽派:二つの聖歌隊と2台のオルガンを用いた二重合唱の技法を開発し、器楽を用いた音楽の発展に貢献。
ルネサンス前期の音楽は美しく芸術性の高い和声的な声楽曲が重んじられました。
しかし、欧州が大航海時代に突入したルネサンス後期になると、よりアグレッシブでスケール感のある曲調が好まれるようになります。
それに加えイタリアでマドリガーレと呼ばれる世俗曲が流行ったことにより、和声的な美しさよりも旋律的美しさが重視される時代に突入。
音楽に対する価値観や常識は徐々に前期とは異なったモノとなっていきます。
ルネサンス後期には器楽が発展し、重唱の歌手と伴奏の楽器で演奏される弾き語りの音楽スタイル「モノディー様式」が発展。
広い音楽表現が可能となり、バロック音楽誕生のキッカケとなりました。
新たなる楽派の登場、社会情勢の変化、器楽の進化。
あらゆる条件が重なり、ルネサンス期に作られた音楽はバロック時代の音楽へと変遷を遂げていきます。
後期の終盤には輪唱(カノン)を用いた楽曲も作られるようになり、ルネサンス特有のポリフォニー音楽は旋律重視のホモフォニー音楽に完全にシフト。
ルネサンス音楽は終焉を迎えることとなりました。
ルネサンス音楽の代表的な作曲家
ギヨーム・デュファイ
デュファイはルネサンス前期に活躍したブルゴーニュ楽派の音楽家。中世西洋音楽からルネサンス音楽への転換を行なった巨匠です。
イギリスから3度や6度の協和音程をとりいれ、イタリア音楽と結びつけました。
ルネサンス音楽のバッハとも呼ばれており、ルネサンス音楽ファンからの知名度は高いです。
ジョスカン・デ・プレ
高い作曲能力を武器に、ルネサンス前期屈指の作曲家として活躍したジョスカン。世俗曲の作曲に長け、現代においても約70曲以上の曲が確認されています。
美しさや静けさといったルネサンス音楽の魅力をふんだんに含んでおり、ルネサンス音楽の特徴をつかみたいのであれば、是非彼の曲を聴いておきたいところです。
ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ
カトリックの宗教曲を多く残し「教会音楽の父」とも呼ばれるパレストリーナ。イタリアのルネサンス後期の作曲家として、対位法の発展に貢献しました。
100以上のミサ曲、140曲以上のマドリガル、300曲以上のモテットといったありとあらゆる宗教音楽を残し、バロック音楽への橋渡し役になったとされています。
クラウディオ・モンテヴェルディ
ルネサンス後期の作曲家として最も有名なモンテヴェルディ。長生きしたため、バロック時代の作曲家にも分類されますが、今回はルネサンスの作曲家とします。
ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者としても活躍したモンテヴェルディはヴェネツィアのサン・マルコ寺院の楽長を勤め、高い人気を誇りました。
オペラの最初期の作品の一つである「オルフェオ」を作曲し、バロック音楽の幕開けを開いた人物としても有名です。
ルネサンス期に生まれたの代表的な古楽器
ルネサンス期が始まったばかりのころは、実用的な鍵盤楽器や木管楽器は殆どありませんでした。しかし後期になるに差し当たり、徐々に楽器が発達。
バロック時代に活躍する有名な楽器が現れ始めます。
ヴァージナル
ヴァージナルはピアノの前身であるチェンバロの更に前身の楽器です。15世紀のヴェネツィアで誕生し、チェンバロと同じく金属的な音が鳴ります。
ヴァイオリン
現在のヴァイオリンの形が確立したのはルネサンス後期の1550年頃。
現存する最古のヴァイオリンであるアンドレア・アマティの1565年頃の作品では、もう既に今のヴァイオリンの形になっていることが証明されています。
現在一般的に使われている楽器としては最も歴史のある楽器の一つであり、多くの謎とロマンを秘めています。
ヴィオラ・ダ・ガンバ
超有名古楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」。古楽器と言えばヴィオラ・ダ・ガンバを連想される方が多いでしょう。
ヴィオラ・ダ・ガンバはヴィオール属の楽器であり、コントラバスの祖先にあたる楽器です。
ヴァイオリン属に比べ音量が小さいため、宮廷や上流市民の家庭における室内楽や教会音楽で使われました。
リュート
現代のギターに当たるポジションの楽器「リュート」。中世からバロック期にかけて普及した楽器で、ルネサンス期においては主に伴奏楽器として使用されました。
音量が小さいことに加え、和声進行が苦手な構造であったことから、バロック時代の終わりにその役目を終えますが、現代においては古楽器の主役の一つとして人気を博しています。
ちなみにアラブのウード、日本の琵琶と近縁の楽器であり、洋琵琶と呼ばれることもあります。
リコーダー
リコーダーの全盛期はバロック時代ですが、ルネサンス期において既に現在の形が確立されています。素材はプラスチックではなく木製。素朴でありながらも奥深い音色です。
17世紀の末ごろに音量や音色の変化などの面でフルートにポジションを奪われ、廃れていきました。
ルネサンス音楽とバロック音楽の違い
ここまでルネサンス音楽について簡単に紹介してきました。
中々マニアックではありますが、ルネサンス音楽はポリフォニー音楽、バロック音楽は旋律重視のホモフォニー音楽という大まかな特徴があります。
ちなみにポリフォニーからホモフォニーに切り替わっていった理由は以下の通りです。
・ポリフォニーが複雑化しすぎて旋律と歌詞が分かりにくくなった。
・言葉による音楽的表現が流行しはじめた。
最終的には教会側から複雑すぎるポリフォニー音楽が禁止されたことをキッカケに、音楽の在り方はホモフォニーに移行します。
さらにはルネサンス音楽とバロック音楽をつないだ大御所作曲家モンテヴェルディの「詞が音楽の上に立つ」という理論も強く影響を与え、1600年に音楽史としての歴史はバロック時代へ突入しました。
モンテヴェルディの「第2の作法」
ルネサンス期の終盤に登場したモンテヴェルディは革新的な書法を取ることで知られました。そんな彼は1605年に出版した《マドリガーレ集第5巻》の中で新様式の音楽を“第2の作法 secanda prattica”と制定します。
この考え方のメインは「詞が音楽の上に立つ」という理論であり、音楽の禁則や細かなルールよりも、詞から読みとられる感情を重視することにしました。
それまでの音楽は感情を表に出さない構造的で淡々としたものが多かったのですが、このモンテヴェルディの考え方によって次第に「感情」を重視する音楽が次第に主流となります。
例えばバロック時代に誕生したオペラは「詞が音楽の上に立つ」という考え方の最たるものであり、ルネサンス音楽との大きな違いとされています。
最後に
中世西洋音楽とバロック音楽の間の時代に位置するルネサンス音楽。
対位法の概念や和音に対しての意識が強くなり、後期には楽器の発展によって音楽の形が少しづつ変化していきました。
正直音楽ジャンルとしてはかなりマニアックな分類となりますが、宗教音楽や古楽器に興味がある方は詳しく学ばれてみるのも良いかもしれません。
バロック時代とは異なる魅力をもつため、好きになる方も少なからずいることでしょう。
コメント
コメント一覧 (5件)
リュートの紹介画像がウードなのは意図的なんでしょうか。
コメント・ご指摘ありがとうございます。
資料不足による臨時画像でして、、。ごめんなさい。
近いうちに変えようと思ってます。
リュートが「和声進行が苦手な構造」とは、厳格な声部進行ができないという意味でしょうか? アーチリュート、テオルボを含めリュート属は和音楽器として、普通にコンティヌオで使われていましたが。
コメントありがとうございます。
厳格な声部進行ができないという意味で書いたつもりでしたが、正直知識不足でした。
日本リュート協会の方ですよね?貴重なご意見ありがとうございました。
お返事ありがとうございます。
厳格な声部進行(横の流れ重視)ができないがゆえに、
塊としての和音(縦の重なり)の色彩感を生かす方向にいったかも、ですね。今日の(ジャズとかロックの)ギターと同じような感じ。
いや、フランチェスコ・ダ・ミラノみたいに横の流れを徹底した人もいるんですが‥‥でも、こっちの方向は鍵盤より先行してたんじゃないかな、と個人的には思ってます。
なお、リュート協会は退会しておりまして、今は野良のリュート弾きです。