ノルウェーの伝統楽器 ハーディングフェーレ

ノルウェーの民族楽器「ハーディングフェーレ」

よっぽど楽器が好きな人でなければ名前すら知らないと思います。

この楽器はヴァイオリンとほとんど同じ形でありながらも、繊細な装飾や独特な彫刻が施された歴とした「民族楽器」です。

実は先日、日本人で唯一のハーディングフェーレ製作家である「原圭佑さん」のお話を聞けるイベントにお邪魔したので、今回はそのレポート内容となっています。

この機会にハーディングフェーレがどんな楽器であるのか是非勉強してみましょう!

ハーディングフェーレ

ハーディングフェーレとは

ハーディングフェーレはノルウェーで使われるヴァイオリン族の民族楽器です。ノルウェーのハルダンゲル地方で生まれたことから、ハーディング(ハルダンゲル地方の)フェーレ(フィドル)という名がつけられたとされています。

尚、フィドルはヴァイオリンの別の呼び方であり、アイリッシュやカントリーミュージックといった民族音楽で使用される時にこの名で呼ばれます。

つまり、ハルダンゲル地方で生まれ、民族楽器として使用されるヴァイオリンがハーディングフェーレになるわけです。

ハーディングフェーレ

いつごろ誕生したのか?

最古のハーディングフェーレは1651年に作られたと言われており、バロック楽器やイギリス楽器を元に製作されたらしいです。ただ、ヴァイオリンに比べ文献が圧倒的に少ないためか不確定要素はかなり多いらしいです。

ハーディングフェーレ

ハーディングフェーレはクラシック楽器ではなく、北欧の民族楽器です。オーケストラには参加せず、基本的には「踊りの伴奏」として使用されます。そのため、楽曲はリズミカルなダンスミュージックです。日本人に馴染みのあるケルト音楽にこのへんは似ていますね。

また、ハーディングフェーレは「邪気を払う楽器」としても扱われており、宗教的な側面も含んでいるらしいです。

楽器としての特徴

ハーディングフェーレの作り方はほとんどヴァイオリンと一緒です。ブロック製作、横板の製作、裏板・表板の製作など、ヴァイオリンを作る時と同じような工程を経て作り上げられます。

ライニング・パーフリングに関してはノルウェーでも入れる人と入れない人がいるみたいですが、原さんは入れるスタイルだそうです。一度入れるメリットを学んでしまうと、入れないという選択肢は選びにくいのでしょう。

バスバーや魂柱を入れるといった工程も同一なのですが、「ネック」「駒部分のアーチ」「指板」「装飾」「共鳴弦の有無」といった点には明確な違いがあります。

①ネックの違い

本体のサイズ感もヴァイオリンとほぼ同等。板の厚みも現代のヴァイオリンと何ら違いはありません。ただ、ライオンヘッド(ドラゴン)と呼ばれるネックはヴァイオリンよりも大きく作られています。

ハーディングフェーレ ドラゴン

ヴァイオリンの特徴であるうずまきではなく、ベロを出したドラゴンのようなデザインのネック。ちなみに一本一本デザインが異なるので、製作者によって個性がでます。

②駒部分のアーチ

ヴァイオリンにしろハーディングフェーレにしろ、ヴァイオリン族は基本的に表板・裏板ともに中央が膨らんでいるアーチを描いています。ただ、ハーディングフェーレは駒部分がフラットになっており、f字孔に段差があります。

ハーディングフェーレ フラット

通常アーチを仕上げる時は駒周辺が一番厚くなり、高くもなりますが、ハーディングフェーレはこの部分をフラットに仕上げます。内部もこのアーチの形に合わせて作るので、ヴァイオリン製作の時とは掘り方が異なるわけです。

③共鳴弦

ハーディングフェーレとヴァイオリンの最大の違いは「共鳴弦」。インドのシタール、スウェーデンのニッケルハルパのように、音を共鳴させ響かせます。

ハーディングフェーレ 共鳴弦

共鳴弦はネックから指板の下を通り、常に4弦の下に備えられています。この共鳴弦によってハーディングフェーレ独自の豊かな音が奏でられるのです。

ハーディングフェーレは共鳴弦が備えられているため、ヴァイオリンに比べると1音1音がボヤけるという欠点がありますが、響きは非常に豊かです。基本的に踊りの伴奏として使用される楽器のため、ソロでも十分に存在感を発揮できます。

また、ハーディングフェーレの共鳴弦の数は4本〜5本。昔は2本だったり6本だったりもしたようですが、2本では共鳴が弱すぎて、6本だと共鳴が強すぎてメロディがぼやけすぎることから、現在は4〜5本に収まっています。

ハーディングフェーレ

④ロージング

ハーディングフェーレを眺めると、とにかく「華麗な装飾が施されている」ことがわかります。この装飾はロージング(花柄装飾)と呼ばれ、ノルウェーに古くから伝わる伝統的な装飾です。

ハーディングフェーレ ロージング

この装飾はニスが塗られた後に、数種類のペンを用いてフリーハンドで施されます。基本的には一発書きで描かれるようですが、下書きを書いてから本書きしても良いらしいです。

ハーディングフェーレ ロージング

ロージングは裏板から横板までぎっしりと描かれています。木工技術・ニス技術に加え、美術的スキルを求められるので、非常に高度な技術が必要です。

ただ、選べるデザインが千差万別なため、視覚的な個性を出しやすのは実に楽しいと思います。ハーディングフェーレを見てから普通のヴァイオリンをみると、かなりシンプルに見えますから。

⑤装飾されたフラットな指板

ハーディングフェーレの指板は演奏してみるとわかりますが、かなりフラットです。

ヴァイオリンの指板はアーチを描いていますが、ハーディングフェーレは2弦を同時に弾くことが多いため、指板がフラット気味になっています。

また、指板には削られた天然シェル素材がはめ込まれており、独特の美しさを放ちます。

ハーディングフェーレ

この装飾は指板をデザインテンプレート通りに切り抜き、空いた穴にその穴と同じ形に切り抜いたシェル素材をはめ込むことで作り上げられます。

かなり繊細な作業となるため、非常に高度な技術が必要です。

なお、表板・裏板の縁にも指板と同じ素材を使って装飾を施すこともあります。上の写真のハーディングフェーレは施されているパターンですね。

⑥調弦が決まっていない

ヴァイオリンは一番左の弦から「ラ・レ・ソ・ミ」の音で調弦しますが、ハーディングフェーレは「シ・ミ・シ・ファ」という基本的な調弦はあるものの、厳密な決まりはありません。

そのため、楽曲や地方によって調弦がバラバラということになります。

また、メインの4弦の調弦が違うということは「共鳴弦の調弦」も異なるため、ヴァイオリンよりも調弦に時間がかかります。演奏中に調弦を何回もしてられないため、プロの演奏家は複数のハーディングフェーレを持ち歩き、曲に合わせて持ち変えることも多いらしいです。

ハーディングフェーレの製作家について

ノルウェーではアマチュア製作家は多く存在しているみたいですが、ハーディングフェーレの製作で生計を立てている職人はノルウェーでは6人くらいしかいないと聞きました。(2017年現在)

また、日本では今回お話を聞かせていただいた「原圭佑さん」のみがハーディングフェーレ製作のプロとして活動されています。

原圭佑さんはイギリスのニューアーク弦楽器製作学校でヴァイオリン製作を学んだのち、ノルウェー・キプロスにてハーディングフェーレの製作を学んだ異色の弦楽器製作家です。

人当たりも柔らかくユーモアもあるとても素敵な方ですので、もしハーディングフェーレが欲しいと思われた方は是非、ご注文なさってみてはいかがでしょうか?

原圭佑さん WEBサイト

まとめ

ヴァイオリンに似ているが全く異なる楽器ハーディングフェーレ。様々な違いはありますが、やはり「装飾の美しさ」と「共鳴弦の豊かな響き」が特徴的です。

今回のイベントをキッカケにすごくハーディングフェーレの製作に興味が湧いたのですが、残念ながら私が技術を覚える機会はなさそうです。ただ、とても気になる存在になりました。

いつかは一本でも作ってみたい。。

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