音楽家にとって局所性ジストニアはなりたくない病気No.1ともいえる病気です。
症状は程度により様々ですが、多くの場合は自分の意思に反して指や体が動かなくなります。
実は私も「局所性ジストニア」と診断された人間の一人で、程度は重くありませんが、楽器演奏(ピアノ)は辞めるに至りました。
この記事では局所性ジストニアについて軽く触れながら、自分の体験談を綴っていこうと思います。
※私は医療に関する専門知識を持ち合わせてはいないので、参考程度にご一読いただければ幸いです。
局所性ジストニアについて
局所性ジストニアは無意識に筋肉がこわばる随意運動の1種です。
自分では力を入れているつもりはないのに、勝手に力が入ってしまうなど、日常の動作に支障がでます。
ペンを持つ時だけ力が入ってしまう「書痙」や目を開けにくくなる「眼瞼けいれん」なども、局所性ジストニアの一つに当てはまります。
なお、局所性ジストニアは幾つかあるジストニアの一種であり、症状は比較的限定的です。
体幹部がねじれたり反り返ったりする症状がみられる全身性ジストニアとは異なり、症状が現れるのは局所的となります。
また、日常生活を送る分には問題ない程度の症状であることが多くを占めます。
局所性ジストニアが発症する原因は特定されておらず、生まれつきだったり、後天的だったり、いつ発症するのかは分かりません。
ただ、覚えておいて欲しいのは、ジストニアは筋肉の病気ではなく、脳の病気であるということです。
ジストニアの原因は脳からの指令の異常にあり、何かの動作をすることをキッカケにエラーが起こります。
音楽家を例にすると、
ヴァイオリニストであれば、小指で弦を抑えようとすると指が反ってしまう。
ピアニストであれば、スケールを弾く時に親指を巻き込んでしまう。
といった具合に、日常生活においては何ら症状は出ないのに、楽器の演奏を行う時だけ症状が出てしまうのです。
プロの演奏家であればこれがどれだけ致命的な病気であるかは語る必要もありません。
局所性ジストニアが発生する原因
局所性ジストニアが発生する原因は定かではありませんが、手に発症するジストニアは、繰り返し同じ動作を長期間行いつづけることで発症します。
そのため、日常的に楽器を触っている人は、局所性ジストニアを患うリスクを抱えるといえるでしょう。
特にピアノやヴァイオリン、ギターはスケールの練習などで繊細で繰り返し反復訓練を行うため、局所性ジストニアが発生しやすいといえます。
発症させないためには、正しい姿勢で演奏する、そして正しい練習方法をするのが大切です。
間違った方法で無理な訓練を続けると、局所性ジストニアになる確率が上がるので気をつけましょう。
私と局所性ジストニア
私が局所性ジストニアと診断されたのはごく最近なのですが、おそらくだいぶ前から症状は出ていたと思います。
症状としては、右手の中指が動かしにくいこと。
中学生の時からピアノを弾いていましたが、どうも右手の動きだけ悪いと感じていたので、もしかしたらとは思っていました。
子供の時から質圧が強かったり、箸が持ちにくかったので、もしかしたら生まれつきなのかも?とも医師に言われました。
具体的な症状
・ペンを持つと力が入ってしまう 書痙
・右手中指の垂直方向への動きが悪い
私は普段ライターの仕事もしているので、タイピング等で指を酷使しがちです。
たまたま、腱鞘炎ぽくなったので、手専門の病院にかかったことから局所性ジストニアだと判明しました。
マッサージしたり、注射を打ったりと色々試しましたが、あまり改善せず、特定の状況で力が入ってしまう症状から「局所性ジストニア」だろうという診断となりました。
局所性ジストニアで不便なこと
私の局所性ジストニアは症状があまり重くないので、日常生活において不便に感じることはあまりないです。
強いて言うなら、ペンを持つと力が入るのであまりペンは使わないようにしてます。(中指を使わない変な持ち方だと無理な力は入らない)
あとはパソコンのキーボードをタイピングするときに、右手だけ少し動かしにくい位でしょうか?
それ以外で中指を酷使するシーンはそこまで無いので、本気で困ることはありません。
ただ、ピアノの演奏においては右手の中指が動かしにくのは致命的です。
なんせメロディーがうまく弾けないのですから。
メロディーがうまく弾けないと人前で弾くのも躊躇われますし、まず自分が楽しくありません。
両手ともバランスよく練習しても、左手のアルペジオはスムーズに弾けるのに、右手のスケールが全然ダメという状況が続いてました。
コード弾きやちょっとした作曲程度には指は動かせても本格的に聴かせる演奏をするのは難しいと判断して、結局ピアノの演奏は辞めてしまいました。
局所性ジストニアは症状が人それぞれなので、ダメなアクションも人によって異なります。
私は右手中指の垂直方向への動きが悪いのですが、指使いが並行になるCのスケールや中指の負担が比較的軽いDのスケールなどは弾きやすかったです。ただ、逆にフラット系のスケールは弾きにくかったですね。(中指の垂直方向の動きが多い)
ただでさえ上達が大変なピアノでこのようなハンデを抱えてしまっては、大半の人は続けるモチベーションの維持が困難になると思います。
ちなみに、右手中指の動きが限定的になると以下のような楽器も不利になります。
・エレキベース
・クラシックギター
・アコーディオン
・コンサーティーナ
・縦笛系
・鍵盤系
右手の指が繊細な動きをする楽器は、演奏できても上達に限界が生じやすいかもしれません。
どの指に発症しても、楽器演奏に致命的な影響を与えるのは避けられないでしょう。
局所性ジストニアは治るのか?
音楽家にとって致命的な影響を与える局所性ジストニアですが、この病気の厄介なところは、完治が難しいことです。
現在の医学においてはこれといった治療法がなく、基本的には発症したら元には戻らないと思った方がいいです。
また、局所性ジストニアは筋肉ではなく脳の神経の障害なので、本格的に治療するとなると脳神経手術という大掛かりな治療となります。
費用も相当かかりますし、リスクも相当にあります。
演奏ができなくなったら死ぬしかないという人であればリスクを承知でどんな治療にも挑戦するのでしょうが、一般人においては「そういう体なんだ」と受け入れるしかないでしょう。
なお、局所性ジストニアはボツリヌス毒素の注射やリハビリ、薬物療法、針治療や整体によって症状が緩和されることもあるそうです。
万人に適した治療法があるわけではありませんが、ある程度は機能回復が見込める可能性はあります。
自分に合った楽器なら続けられる
局所性ジストニアは完治が難しい病気なので、患ってしまった場合は楽器の上達が困難になります。
完全に弾けなくなるわけではありませんが、初級の域を出ることは難しくなるでしょう。
ただ、局所性ジストニアが発症しない楽器であれば、問題なく演奏ができるので、楽器演奏を生涯の趣味にするのであれば別の楽器に転向するのもアリです。
私の場合は完全にピアノを諦めてヴァイオリンに転向しました。
私は右手中指の垂直方向への動きが悪い局所性ジストニアなので、左手で音程を作って、右手で弓を持つヴァイオリンにおいては局所性ジストニアの症状が出ません。
難しい楽器ではありますが、症状に悩みながら楽器練習を行う必要が無いので、とても楽しみながら技術の習得ができています。
ジストニアと診断されたのは正直想定外でしたが、やりたい楽器が分散しがちな私にとっては一つの楽器に集中するいい機会だったのかもしれません。
ただ、これで左手もジストニアになってしまったら楽器演奏を趣味にすることが難しくなってしまうので、体をケアしながらマイペースに技術の習得をしようと思います。
最後に
無意識に筋肉がこわばる局所性ジストニアは楽器演奏を趣味にする人間にとっては非常に厄介な疾患です。
繰り返し同じ動作を長期間行いつづけることが原因とされますが、自責感の強さや真面目すぎる性格など精神的な部分で発症してしまうこともあり、誰であっても発症する可能性を秘めています。
発症してしまうと完治が難しい病気であるため、私たちが心がけたいのは「正しい練習方法」で無理をせずに演奏を楽しむこと。
局所性ジストニアを患っている人は工夫しながら。患っていない人は「局所性ジストニア」という病気があることを理解しながら、指や手を大切にしてください。