ヴァイオリン表板・裏板の縁にはパーフリングと呼ばれる黒い線上の装飾があります。パーフリングはただの装飾の為だけのものではなく、割れの進行を防ぐ目的で施される「機能的なパーツ」でもあります。
この記事ではパーフリングを作り上げていく工程を解説します。
パーフリングは線を描くのではなく、バイオリンの縁に本体の木とは別の材料を埋め込むことで作られるパーツです。一見機械で書いた線のように思えますが、実は溝を掘る・木材を曲げるといった細かな作業を行う必要があります。
パーフリングの位置は縁から4mm
パーフリングを入れ込む場所はヴァイオリンの縁から「4mm」の位置です。まずはパーフリングを施す為に縁から7mmほど「全て平ら」にしていきます。
この線までの部分が約7mmなので、この部分をヤスリで平らにします。この工程でとにかく注意しなければいけないのは「厚み」を削ってしまうこと。もう縁の厚みは完成サイズの約4mmに調整してしまっているため、仮にヤスリで間違ってこれを削ってしまったら、取り返しがつかなくなります。
そのため、慎重に削りましょう。
ちなみにボタン周辺(アッパーバウツ)は10mmほど削ります。この部分はボタンが邪魔になるため、広めに削っておいた方が作業しやすいです。
縁から7mmまでヤスリで平らにする
削る部分が決まったら、ヤスリを平らに構えて、ゴシゴシ擦ります。とにかく「平ら」にです。ただ、必要以上に削ってしまいそうなら、その前に削るのをやめましょう。
カーブ部分もラインに沿って平らに削ります。抉ったりエッジを欠けさせないように気をつけましょう。
ヤスリでは削りにくいCバウツ部分はノミで慎重に削っていきます。ヤスリに比べて、ノミは削れてしまいやすいので、ヤスリ以上に慎重に削りましょう。ちなみにCバウツの先端はパーフリング部分よりも若干厚みを残した状態にしておきます。
裏板一周削ったら一度作業をストップします。次はこの平らに削った部分にパーフリングカッターで線を入れ込んでいきます。
4mmの位置にパーフリングカッターで線を入れる
パーフリングを入れるためには溝が必要なのですが、溝を掘るためには目安が必要です。そこで、「パーフリングカッター」という道具を使って、線を入れていきます。
パーフリングのラインをつけるのに使用するがこの「パーフリングカッター」です。パーフリングカッターには側面に沿わせて進めるための「楕円形の棒」とラインをつける為の2重の刃がついています。
パーフリングカッターの使い方は簡単。パーフリングカッターの棒部分を側面に合わせ、ケビキで線を入れる時と同じ要領で1周線を入れていきます。力を抜いて線を入れれば薄く線が引かれますし、力を入れればクッキリと線が刻まれます。
力を入れる過ぎるとラインがブレるため、基本的には薄く何回も線を引くようにしてください。
繰り返しになりますが、エッジからパーフリングまでの距離は「4mm」となります。
1周ラインが入りましたら、次は平行に引かれた2本線をナイフでなぞって線を深くしていきます。この際にナイフを斜めに入れてしまうとパーフリングが入れにくくなるので、垂直になぞることを心がけましょう。
パーフリングを入れるための溝を掘る
ナイフで両サイド2本の線を深く入れたら、彫刻用の小さなノミで溝を彫っていきます。
この工程では「線をナイフでなぞる→ノミで彫る」を1周繰り返します。彫る順番はアッパーバウツ・ロウアーバウツを彫ってから、Cバウツ部分を彫るのがオススメです。
パーフリングを入れるための溝は割と深いです。縁の厚さは4mmほどなのに対し2mmほど彫ります。
上の写真のように、彫りながらパーフリングの端材を使って深さを確認していきます。理想は全て綺麗にパーフリングが埋まって収まることですが、若干はみ出しても削ればいいので、ある程度はOKです。
ただ、深く掘りすぎて穴を開けてしまわないように気をつけましょう。
ひたすら、「線をなぞる→掘る→パーフリング端材を入れて確認」を繰り返します。注意したいのはナイフで線をなぞる時の角度です。ナイフを線に対して斜めに入れてしまうと、どんどん溝が広くなってしまったり、溝が斜めになってしまいます。
また、溝の底面がしっかり直角に削れているかどうかも確認してください。
溝が広がらないことも重要ですが、垂直・直角に溝が削れていることも非常に重要です。
また、ノミを真っ直ぐに使わないと、削った際に木がめくれます。Cバウツの先端など、曲線は特に気をつけてください。
どうしても曲線が上手く削れない場合は、カービングナイフを使うのも手です。
2mmほどの溝を裏板裏面の縁に彫り込みました。上記の写真のようにパーフリングの端材を入れて確認してキッチリとはまっていればOKです!
なお、Cバウツの溝は先端をちゃんと鋭角にしておきます。ここが丸かったり四角かったりすると、うまくパーフリングが重ならないです。
パーフリングをアイロンで曲げる
裏板1周パーフリングの溝が彫り込めたら、次はパーフリングそのものを溝の形に合わせてベンディングアイロンで曲げます。
パーフリングはヴァイオリン本体とは違う質感の細い木材です。ヴァイオリンを仕上げるのに3本使用するのが基本となります。1本数百円で買えるので、失敗した時用に余分に揃えておきましょう。
パーフリングの曲げ方は横板やライニングと同じく、アイロンで曲げます。ただ、パーフリングは柔らかいので蒸気を当てる必要はなく、そのまま直接アイロンに当てて構いません。Cバウツなど、曲げが大きいところだけ、水に浸してから曲げます。
パーフリングの曲げ方
横板やライニングを曲げた時と同じく、パーフリングをアッパーバウツ・ロウアーバウツ・Cバウツの左右「計6パーツ」分、ある程度の長さで切り分けます。
そしたら、あとは溝にフィットするようにアイロンで曲げていくだけです。
真ん中の棒が未使用のパーフリング。裏板1周で1.5本分くらい使うのが目安です。
Cバウツの先端は現在このような状態なので、次の工程で綺麗に溝にはめます。
また、この工程で失敗するとパーフリングが足りなくなるので、やっぱり最初は4本くらいパーフリングを用意しておきたいところです。
溝にはまるように切り揃える
現在のパーフリングの長さは溝に対して若干長くなっています。そこで、切り揃えて溝にはめ込むことが必要です。
結果から見せると、上の写真のようにキッチリとCバウツの溝の先端で交わっていればOKです。そのためには長さを少しづつ短くして調整することが必要になります。
Cバウツの先端に合うようにパーフリングを切り揃えるには、少しづつ斜めに切ってパーフリングを短くします。そうすれば、2つのパーツが交わるときに三角形になります。
また、その際に揃えたときに隙間ができないように切っていくことが重要です。切る角度の目安としてはパーフリングの断面が「黒・白・黒」と三色になっていることが理想となります。
全てのCバウツが綺麗に出来上がればいいのですが、最初はなかなかうまくいきません。
この難しさもヴァイオリン製作の楽しさです。
ちなみにアッパーバウツとロウアーバウツは上下で斜めに切り揃えることで接着します。
図の下がアッパーバウツとロウアーバウツの切り方です。6mmから11mmくらいの長さに上下を斜めに切り、ちょうど合えばOK。Cバウツに比べるとこちらは簡単です。
長さを切りそろえて、溝にいれるとこんな感じになります。できる限り綺麗な仕上がりになるよう心掛けましょう!
ニカワでパーフリングを接着
ここまでくればあとは接着するだけ!接着方法は恒例のニワカです。
ニカワを溶かし、適切な温度になったら、接着を開始します。
パーフリングの接着はスポイトを使用します。溝にニカワに注入し、すばやくパーフリングを入れ込みましょう。
入れ込んだら、プラスチックハンマーで押し込みます。奥までパーフリングが入ってないと意味がありませんので、浮かないように叩きましょう。
最後は適度に硬い素材でパーフリングをゴシゴシさらに入れ込めば完成です。あとは、乾くのを待つだけとなります。
今回はパーフリングを入れる作業を行いました。
パーフリングが視覚的に目立ちやすい部分なので、うまくいけばいくほど美術品としての価値が高まります。
ただ、この作業は慣れが必要なので、上達するためには何本もヴァイオリンを作る必要があります。
熟練の職人さんが作りあげるパーフリングはとても美しいので、ヴァイオリンを眺めるときは是非パーフリングの美しさにも注目してみてください。