前回の作業ではネックをカットし、実物大の大きさにするためのラインを引きました。今回はこの線を元にネックを彫り進めていきます。
ヴァイオリンの渦巻き部分は非常に繊細に作られていますが、順序に沿って作り上げれば木工初心者であっても完成させることが可能です。工程が多く難しく感じますが、一つ一つ慎重にこなすことで徐々に楽器らしい美観に変化を遂げていきます。
この記事では渦巻きを彫刻するための工程を詳しく解説していきます。
工程1.ペグ穴付近と渦巻き部分の荒削り
最初の作業として、まずはネックを横に寝かせ、等間隔にノコギリで刻みを入れていきます。
この刻みは前回書き込んだラインギリギリまで行います。
削りすぎてしまうとネックはどんどん細くなってしまうため、絶対は線を超えないようにしてください。
あまりにも線手前過ぎるのも作業しにくいため、絶妙なラインを狙いましょう。くれぐれもノコギリの角度にはご注意ください。
ノコギリでの刻み入れは、渦巻き部分の少し手前くらいまで行います。片面一通り刻みを入れたら、ネックをひっくり返して、もう片面も刻みをいれます。この際、切れ込みを入れる向きにはくれぐれも気をつけてください。
両面刻みを入れたあとは、ノミでバリバリ木材を削っていきます。削るというより、掌底でブロックを壊していくようなイメージです。刻みを入れた部分全てを一通り削ります。
一通り削り終わると、このようになります。線を超えないよう注意しながら両面行いましょう。
その後渦巻き部分に上の写真のような線を書き込み「渦巻き部分を削ることなく」ノコギリで書き込んだ線を刻みます。
刻みを入れる時のコツは内側から外側に切っていくこと。理由は渦巻き部分を切ってしまわないようにするためです。
切り終わると写真のような状態になります。その後は先ほどの工程と同じように、ノミで刻まれた箇所を壊していきましょう。
ペグ穴付近は「破壊」というイメージで削りましたが、渦巻き部分は勢い余ると危険なので、少し慎重に削ったほうが良いと思います。
一通り削り終えると写真のような状態になります。ひとまず、両面この状態にしましょう。
また、渦巻きを削る前に、背面の部分を剃り落としておくと作業しやすいです。工程としては、まず土台部分と同じ高さまでノコギリで八の字に切り込みを入れます。
ある程度形を整えたら、ノミで側面を綺麗にします。この際、角度は「垂直」ではなく、「斜め」にしておくと良いです。
土台の高さに合わせて側面を削った状態がコチラ。仕上げの工程において綺麗に整えるので、この段階ではざっくり削るだけでOKです。
工程2.渦巻き部分の形成 1段階目
渦巻きの彫刻1段階目として、書き込まれた線まで「平らに」削ります。
ガタガタしている渦巻き部分は丸ノミで丸い形に整えます。この作業を行うときは丸ノミを渦巻きの真上からストンと落として、少しづつ丸に近づけていきます。注意点は内側に抉りこまないこと。台形に整えるくらいの気持ちで削っていくのがベストです。
渦巻き部分の側面は丸ノミで削ったあと、小さなノミで不要な部分を削ぎ落とし、土台部分に壁を刻みます。壁を作る理由ですが、この壁を作らないと渦巻きの周りを削るときに「渦巻き部分の側面」が剥がれてしまう恐れがあるからです。
渦巻きの周りは写真のようなノミの持ち方をして、少しずつ削っていきます。出来る限りこの段階では「平たく」なるように削ります。しっかり手をネックに固定して作業しないと、腕や左手に刺す可能性があるため、細心の注意を払ってください。
正面からみた削り途中の図。左側が削っていない状態で、右側がある程度削っている状態です。右側の渦巻き周りはかなり平らになってきているので、もう少し削ればとりあえずOK。左側は右側とほぼ同じになるように削っていきます。
尚、渦巻きは側面から見たときに大体このくらいまで削れば大丈夫です。全部削る必要はありません。
渦巻きのアウトラインをしっかり整える
渦巻きの形成2段階目に入ると、渦巻きに書き込んだ点線が見えなくなってしまうため、1段階目の時点で側面を綺麗に整えておく必要があります。
小さいノミ・ヤスリをつかって丸い円柱に整えます。これまでの工程を丁寧にこなしていれば、自然とこのような形になるはずです。
渦巻きは円柱。その周りは平たく整ったら、第1段階は終了です。両面ともこの作業を行い、渦巻きの大きさや位置が左右対象になっているかチェックしてください。
ひとまず、このくらいスマートなフォルムになったら先に進んでOKです。
工程3.渦巻き部分の形成 2段階目
渦巻き2段階目に入るにあたり、まずは参考書やポスターと見比べ、ベースとなるモデルの渦巻きをチェックします。
2段目の渦巻きがどのくらいの角度になっているのか?背面からどのくらい見えるのかをチェックし、ネックにラインを書き込んでいきます。
フリーハンドで書き込んでいくため、できるだけ綺麗な線を書くように努力しましょう。また、ネックの頂点部分は幅12mmとなっていますが、2段目はその2倍の24mmとなります。(モデルによって寸法は異なる)
この幅もうまく活用すれば綺麗な2段目のラインがかけるはずです。
2段目の線を書き終えたら、1段目の時と同じようにノコギリで切り込みを入れるための線を入れます。なお、今回は1段目を残してノコギリを入れるため、勢い余って切らないようにしてください。
慎重に切り込みを入れ終えたら、ノミで余分なところを壊していきます。こちらも勢い余って削りすぎないようにしてください。2段目は壊すよりも削るに近いイメージになります。
削り終わった状態がコチラ。ここからは1段目と同じく、中央付近を丸く整えつつ、渦巻き部分を書き込んだ線の部分まで整えていきます。
渦巻き3段目に食い込まないような角度を意識しながら壁をつくり、、
2段目の線まで、ノミで平らに整えていきます。基本的な手の動かし方は1段目と同一なので、同じように進めればOKです。
削ることを繰り返し、綺麗に整ったら2段目は終了です。
工程4. 渦巻き部分の形成 3段階目
2段目と3段目の工程はほぼ同一。まずは参考書の渦巻きの形を見ながら、3段目のラインをネックに書き入れます。
書き終えたらノコギリでの切断です。3段階目の入ってもやることは同じ。まず、余分なところに線を入れて、ノコギリで切ります。ただ、2段目よりも細かくなるため、さらに慎重に切ることを心がけましょう。
3段目独自の工程は中央の切り込みを8/7のノミで入れること。カーブが緩やかな箇所は7/6を使います。それ以外は壁を作り、線のところまで慎重に削ればOKです。側面をどこまで削るかについては、資料の光の反射に注目してください。
おおよそこのような形になれば、渦巻きの基礎となる形成は作られたといってもよいでしょう。なお、スクロールの2段目、3段目はノミをペンのように持って、高い方から低い方へ削るのがセオリーです。
正面から見て、左右がだいたい均等になっているかも確認してください。ズレているようなら、均一になるように少しずつ削って調整しましょう。
工程5.ノミを使って溝を深くする
現状渦巻きは平らに形成されていますが、楽器を立体的に見せるには溝を深くする必要があります。3段目まで渦巻きを彫り込んだ時点で、少しつづ溝を深くする工程に入ります。
工程としては渦巻きの内側をノミですこしづつ彫っていき、立体感を出します。彫り方はこれまでのネックの彫り方とほぼ一緒なので、特別難しい工程はありません。
渦巻きの溝を深くする方法
渦巻きを深く掘る前に、ヤスリでネック全体の面取りをします。注意したいのは、なんとなく面取りをするだけでなく、完成系の角度を意識した面取りをすること。角度は45度くらいを目安とし、全体に統一感ができるようにヤスリがけをします。
また、渦巻きの目玉は削れやすいので、こちらは特に注意してください。
面取り後は最初に渦巻きを彫り進めた時と同じように、「小さいノミで壁を作る→大きなノミで彫る」を繰り返します。
溝の深さはモデルによって異なるので、資料を見本に目標の深さまで彫り進めていきます。もちろん彫りすぎると取り返しがつかないので、慎重に作業を進めましょう。
目玉の側面は完成度に関わるため、特に注意してください。7/6や7/10のノミをうまく使うと作業しやすいです。
作業を繰り返し、完成系の深さまで渦巻きを彫り終えたら完成です。
スクロールの製作を行う上で、何よりも心掛けたいのは資料を良く見ること。
どれくらい目玉部分が見えるのか?2段目までは何mmくらいなのか?
左右の差はどれくらいなのか?
ノミ跡の向きや彫りの深さもよく見ながら、モデルならではの特徴を再現しましょう。
工程6.ペグボックスの形成
渦巻きを完成させたら、次はペグボックスを形成します。この作業は渦巻きの繊細な作業から一転、豪快な作業となります。
ペグボックス-作業工程1. 下書き〜穴あけ
ペグボックスを作成するにあたり、最初に行うのはネックにペグボックスの下書きを書き込むことです。
まずはペグボックスの穴の横幅を示す点を2つ入れます。ペグボックスの幅はモデルによって異なりますが、16mm前後となることが多いです。左右のバランスが悪くならないよう調整しながら印をつけましょう。
一番上のペグ穴より少し奥の位置がペグボックスの最奥。寸法は横幅約12mmです。(これもモデルによって異なる)
中間の寸法もうまく取りつつ、なだらかな曲線になるように線を書き入れます。
この線が両側均等になっていないと完成系の左右のバランスが悪くなるので、丁寧に書き込みましょう。
なお、耐久性やバランスを考え、最奥の両脇が2mmより薄くならないようにしてください。
下書きを書き終えたら、バイスでネックを固定し、ハンドドリルで豪快に穴を開けていきます。その際、両側面に写真のような深さのラインを書き込んでおき、その深さを超えないようにハンドルを回します。
勢い余ると貫通し、臆病になりすぎると穴が開いていかないので、絶妙な力具合と思い切りが必要です。
また、状況に応じてドリルの太さを変えるとよいでしょう。
注意したいのはペグボックスの形は正面から見たとき、真っ直ぐではなくナナメになっていること。そのため、真っ直ぐではなくナナメにハンドドリルで穴を開けます。
大雑把にハンドドリルで穴を開けたら、8/7ノミなどを使って、穴と穴をつなげ、さらにペグボックスの形に少しずつ彫り進めます。この際絶対にネックを貫通しないように注意してください。
また、ペグボックスの入り口2~3mmはこの時点では掘らないようにしましょう。
ある程度穴を開けると写真のようになります。あとは少しづつ箱になるように調整を繰り返します。
ペグボックス-作業工程2 ペグボックス内の調整
ここからは平ノミも使って壁と底面を整えます。
ポイントは完全に直角ではなく、写真のようにややナナメに削っていくことです。
断面図のイメージはこんな感じ。この形になるようにペグボックス全体を平ノミで調整します。
奥の部分は写真のようなフォームで作業をすれば綺麗に整えることが可能です。この部分はヤスリが届かないので、この時点でしっかりと作りこんでおきます。
ペグボックスを下から覗くと、12mm付近の部分に厚みがあることがわかります。このままではカッコ悪いので、厚みもしっかり落としておきましょう。
底面も平ノミで綺麗に整えます。その際のイメージは滑り台。入り口は平らで、あとは曲線的に奥に向かっていく形になります。また、削る際はノミの向きにも気をつけましょう!
最後に根元の2〜3mm残しておいた部分を小さいノミでややナナメに落とし、壁とうまく馴染ませます。ここはナットと隣接する部分になるので、特に丁寧に加工しましょう。
一通り削り、写真のような形になればOKです。
あとは全体を左右均等になるように微調整をしたり、無駄な部分をそぎ落とせば完成となります。
だいたいこんな感じでしょうか。最終的にニスを塗る前にも調整しますが、可能な限り綺麗におきましょう。
今回の工程では渦巻きの彫刻とペグボックスを作り上げました。ここまでくるとかなりネックも完成が近づいていることを実感します。次回はネック製作の最終工程「背面・正面の溝」と「指板作り」に進んでいくので、こちらもよろしければご覧ください。