調合や種類、塗り方によってヴァイオリン表面のニスが非常に柔らかくなることがあります。
実は私の一作目もかなりニスが柔らかくなりました。
ややニスを厚く塗りすぎてしまったことが、ニスが柔らかくなった原因かも知れませんが、2日間ほどケースに入れて置いただけで跡が付くのは想定外でした。
この状況も未来への教訓とするため、今回レポートを残します。
新作ヴァイオリンとニス
ニスは見た目を美しく魅せるのと同時に楽器の保護を目的として塗られます。
主に使われるのはアルコールニスとオイルニスの2種類ですが、私は今回オイルニスを使ってニスを塗りました。
ニスを塗る→乾かすを何回も繰り返すことでニス塗りは完成するのですが、実は作りたてのヴァイオリンに関しては製作後しばらくニスが定着(乾燥)しません。
どのくらいの期間で乾燥するかはニスに配合や塗り方、製作環境や保管環境によって左右されますが、完全に定着するには1年ほどかかる場合もあります。
ちなみにニスには「柔らかい」「硬い」という言葉が使われ、以下のような特徴があります。
柔らかい:透明感が強い。ベタツキがある
硬い:透明感が弱い。乾燥している
この表現を使うと私のヴァイオリンのニスは非常に柔らかく、柔らかすぎたために、ケースの素材と引っ付いてしまったのです。
新作ヴァイオリンはケースにしまわず、吊るすなどして乾かしておくことをオススメされましたが、まさか2日間ケースに入れっぱなしにしただけで、引っ付くとは思いませんでした。
良質なニスほど乾きにくい
ニスは硬ければ良いというわけではなく、柔らかさも非常に重要です。硬すぎるニスは音の響きを邪魔し、鳴らない楽器にしてしまいます。
例えば低価格量産楽器。
主に中国製の安物が該当しますが、これらの楽器はラッカー仕上げ(スプレー)で仕上げる為、すぐに乾燥しますが「柔らかさ」がないため、音自体が硬く響かなくなります。
なので、ある程度柔らかいことは良いことなのです。
弦楽器製作者であれば、少しでも優れた楽器を作りたいと誰もが思っているはずです。
そのため、ニスは上質はモノを使います。
しかし、上質であればあるほど繊細で柔らかなニスを使用することになるため、完成後の扱いはより慎重にならなくてはなりません。
特にニスの配合によっては柔らかいニスが更に柔らかくなり、ちょっとしたことで跡がつく可能性が高まります。
配合によってはニスがなかなか乾燥しないこともあり、こればかりは実際作ってみなければ分からないというのが正直なところです。
これ程までにニスが柔らかくなった原因
今回ケースの跡が付くほど柔らかくなってしまった原因は以下のことが想定されます。
・アルコールニスではなくオイルニスを使用した
・乾かす時間が短かった
・気温が暑かった
・ハードケースを使わなかった
近年主流となっているオイルニスはアルコールニスよりも乾燥させる回数は少ないですが、乾きにくいという特徴があります。
また、今回は展示会に間に合わせるために急いで仕上げをしましたが、もしかしたら乾かす時間が短かったかもしれません。
加えて、5月とは思えない気温となっていた2019年5月。展示会後も暑い時期が続いていたため、ケース内の温度が上昇したと思われます。
ただでさえニスが柔らかい状態のヴァイオリンをケースに放置したのですから、そりゃベトベトになるのも頷けます。
新作ヴァイオリンを保管する上での注意
今回の経験を踏まえ、保管をする上での注意点について勉強してみました。
まず、新作ヴァイオリンは梅雨・夏の高温・多湿といった環境に気を付けなければなりません。
これらの時期はニスがベタ付きやすく、ケース跡が付く可能性が高まります。
また、気温が30度を超えたあたりからネックが下がりやすかったり、ニカワが割れたりすることも考えられるため、注意が必要です。
※新作に限らず全てのヴァイオリンにいえることですが。
ニスが定着したヴァイオリンであればケースに収納すれば一先ずは大丈夫です。
しかし、新作に関しては高温を避けるためにケースに入れるとニスの跡が付いてしまいます。
さて、、。どうすれば良いのか、、。
幾つか対処方法があるので、それを記載します。
1.ヴァイオリンを吊るしておく(もしくは立てかける)
ヴァイオリン工房を画像検索して見ると、よくヴァイオリンを吊るしている写真を見かけませんか?
これはカッコつけているわけでなく、乾燥させているのです。
とにかく新作ヴァイオリンはケースに入れっぱなしはNGです。
かといって高温多湿の場所に放置しておくのダメ。
じゃあどうすれば良いのか?
一番ベストなのはスクロール部分に針金などをひっかけ、吊るしておくことです。
まだニスが定着しきっていない新作ヴァイオリンは直射日光が当たらない風通しの良い場所に吊るしておくのが良いといわれます。
ただ、本格的な工房をもっていない限り、なかなか何本も吊るしておくことは難しいと思うので、展示会で展示されているようにスタンドに立てかけておくのも良いでしょう。
ちなみに楽器にとって理想的な保管環境は以下の通り。
室内気温:18°C〜20°C
室内湿度:50〜60%
春や秋はスタンドに立てかけておくだけでも大丈夫そうですが、真夏や真冬に関しては工夫しなければダメそうです。
2.エアコンをつけっぱなしにしておく
繊細なヴァイオリンはもはや「人」と同じ扱いをするべきです。
人は気温が30度を越えれば暑く感じますし、湿度が高すぎても低すぎても不快に感じます。ヴァイオリンも同じで、快適な環境に置いておくのが一番良いです。
なので、ヴァイオリンが不快に思う環境であれば、それを解消するためにエアコンをつけっぱなしにしておくのも一つの手段だといえます。
電気代はかかりますが、新作ヴァイオリンにとっては間違いなく良い環境となります。
3.ケースを変える
ヴァイオリンケースはどのケースを使っても大丈夫。
私もそう思っていました。
しかし、新作ヴァイオリンの場合はニスが柔らかいため、収納がぴったりすぎるモノを使ってしまうと、ヴァイオリンにケースの跡が付いてしまいます。
それを避けるために、極力ケースと本体が密着しないタイプのケースを使うのが新作ヴァイオリンにとっては良さそうです。
新作ヴァイオリンをケースに収納する場合、例えレッスンを受けに行くだけであっても、ベタベタになる可能性があります。密着性の高いケースを使用している場合は、跡が付く可能性が高くなるので、避けたほうが無難です。
最後に
新作ヴァイオリンはオールドや量産品と比較すると扱いが非常に難しいです。とにかくニスが柔らかく、夏場は気を付けないとケース跡が付いたり、汚れがついてしまいます。
今回の教訓としては、よく乾燥させてからデビューさせる!これに限ります。
オイルニスを使って製作をしていくならば、ニスの柔らかさに対しての対策を考えていく必要がありそうです。