ヴァイオリンを製作する際には様々な道具が必要です。カンナやナイフといった金属系の道具はもちろんのこと、作業を円滑に進めるための治具も自作することになります。
治具をどんな種類(樹種)の木材で作るかは人それぞれですが、木材によっては治具製作に向くものと向かないものが存在します。
この記事ではホームセンターなどでよく売られている木材をまとめてみました!
どの木材を使用するか迷った場合の参考に、記事をご活用いただければと存じます。
治具製作に向いている木材とは?
治具製作に向いている木材としては、加工のしやすさと材質の固さのバランスが良いものが最適です。加工しやすくても柔らかすぎる木材は耐久性に難がありますし、固くても加工しづらい木材だと治具を作ること自体が大変になります。
ただ、治具によって最適な木材は大きく異なります。
例えば横板を接着する際の当て木など、強い力をかける必要があるパーツに関しては固めの木材を使う方が良いですが、ちょっとした補助材として使う治具であれば固さよりも加工しやすさを重視した方が良いと思います。
また、反りにくさを最重視する治具(台座など)であれば、無垢材よりも合板を購入した方が反りません。
なお、木材には大きく分けて針葉樹と広葉樹の2種類が存在し、一般的に針葉樹は柔らかく加工しやすい傾向に、広葉樹は固く加工しづらい傾向にあります。どの木材を買うか迷った際は、針葉樹と広葉樹であるのかも気にしてみてください。
針葉樹の木材(柔らかく加工しやすい)
針葉樹の木材は加工しやすく、それでいて安価に手に入る樹種が多いです。とりあえず安く作りたい、何個も作る必要がある、複雑な形に切り取らなくてはならない場合、針葉樹の木材を選んでみてはいかがでしょうか?
スギ(杉)
人工林として最も多く植えられているスギは針葉樹の木材として最も手に入りやすい樹種です。価格も安いため、コストパフォーマンスにも優れます。木目がまっすぐ通っていることから、使いやすい木材であるといえます。
ただ、反りやすい木材であるため、ちょっとした治具を作成するときに使った方が良いです。
パイン集成材
パイン集成材はマツ科の針葉樹であるパインの間伐材を切り出して接着剤で貼りあわせたものです。無垢材に比べて反りにくいため、安く台座系の治具を作成したいときに役に立ちます。
樹脂成分が高く耐水性に優れるため、治具製作用の木材としては良材であるといえます。
無垢材を幅方向にのみ貼りあわせた「横接ぎ集成材」と横方向に貼りあわせた「フィンガージョイント・積層集成材」の2種類が存在しますが、反りにくさを重視するのであれば「フィンガージョイント・積層集成材」がおすすめです。
ヒノキ(檜)
ヒノキは美しい白さと光沢をもつ木材です。特有の芳香があり、リラックス効果の高さから人気があります。ただ、治具製作用の木材としてこれらの特徴はメリットになるとはいえないため、こだわりがなければ特に選ぶ必要がない樹種であるともいえます。(価格でいうとスギの方が安い傾向)
とはいえ針葉樹の中では水気・湿気に強い素材であるため、耐久性を求めないのであれば治具製作に向いている木材であるといえるでしょう。
アカマツ
水湿に強く耐久性に優れるアカマツ。スギやヒノキほどではありませんが、国内の針葉樹としてはメジャーな存在です。木質は密であるため固さがあり(気乾比重 : 0.53)、ある程度の固さが欲しいときに使える木材だといえます。
ただ、他の針葉樹よりもねじれやすいのが欠点。安く買うことができますが、狂いが生じるため使いにくいことがあります。
広葉樹も木材(固く加工しづらい)
広葉樹は耐久性のある樹種が多く、反りにくいため丈夫な治具を作ることができます。丈夫に治具を作りたい場合は、広葉樹を選ぶこと良いでしょう。ただし、針葉樹と比較すると価格は高めです。ホームセンターでは取り扱いがないことが多々あり、その場合材木屋やネットで購入することになります。
なお、広葉樹の有名どころとして世界三大銘木に数えられる「マホガニー」「ウォールナット」「チーク」が挙げられますが、こちらは希少価値が高く高価な木材となるので、治具作りに使用する必要はないと思います。(純粋にもったいない)
ケヤキ
ケヤキは強靭で狂いが少ない優れた耐久性をもつ木材です。国内の広葉樹としてはメジャーな存在で、北海道以外のどの地域でも見かけます。落ち着いた色味と美しい木目をもち、固い木材でありながらも比較的加工しやすいことも特徴として挙げられます。
針葉樹と比較すると価格は高くなりますが、高級感のある治具を製作することができると思います。
クリ(チェスナット)
チェスナットの名でも知られるクリの木は加工と乾燥が容易な扱いやすい木材です。産出量が年々減ってきており、近年は相場が上がっています。心材部分は淡い黄褐色または赤褐色。辺材部分は白に近い色となっています。湿気にも強いため、楽器製作用の治具にも向いています。
ナラ(オーク)
オークはブナ科コナラ属の落葉広葉樹です。日本ではナラの名で親しまれていますが、オーク材はカナダ南部やアメリカ東部が主な産地であり、日本では北海道で分布されている「ミズナラ」を指すことが多いです。
いずれも高い耐久性や耐腐食性をもち、建築用の床材としてよく使われていますが、オーク材の方が色味が白っぽくなっています。
広葉樹としては比較的安価で買えることもあり、コストパフォーマンスに優れる木材であるといえるでしょう。
カエデ(メイプル)
カエデ科に属する広葉樹の一種です。美しい杢目を含み、ヴァイオリンやヴィオラの裏板として使用されます。楽器製作を進める上で端材が手に入るため、こちらで治具を製作することも可能です。
なお、メイプルには複数の種類があり、玉粒模様が一面に広がった杢をもつ「バーズアイメープル」、強度と耐久性に優れる「ハードメイプル」、加工性が良い「ソフトメイプル」などが存在します。ハードメイプルは流通量が比較的多いため、丈夫な治具を作りたい際に購入してみると良いでしょう。
使い勝手に優れる「合板」について
ここまで紹介した針葉樹や広葉樹はいずれも無垢材です。無垢材は天然素材ならではの色味のコントラストや豊かな杢目の表情が味わえますが、自然素材であることから「湿度や温度の変化で膨張や収縮する」欠点があります。
作品そのものを作るのではなく治具を作るだけであれば、無垢材にこだわる必要はなく、使い勝手に優れる「合板」を選ぶのも合理的です。
合板は木材を薄くむいた板(ベニヤ)に接着剤を塗布し、複数枚を貼り合わせたものです。伸び縮みが少なく耐久性にも優れた素材であり、DIY用途など幅広いシーンで活躍します。合板に使われる樹種としては「ラワン合板」「シナ合板」「ポプラ合板」など。コア(芯)となる芯板をはさみ込み、表面にベニヤ板を貼って作った合板「ランバーコア材」もホームセンターでよく見かけます。
ランバーコア材は通常の合板に比べて反りが少ないため、治具の素材として向いています。手頃な価格で厚みのある木材を購入することができるため、木材選びに迷ったらとりあえず一つ買ってみると良いでしょう。
私もランバーコア材はよく使っており、表板裏板の平面出しを行うための治具や表板のハギ合わせに使う当て木などに使用しています。
用途に合わせて樹種を選ぼう
作りたい治具によって選ぶべき樹種は異なります。台座として使いたいのであれば反りにくく安価なランバーコア材やシナ合板など、接着時にクランプで挟む当て木として使いたいのであれば耐久性の高い広葉樹を使うと満足いく結果が得られやすいです。
反りやすい針葉樹であっても加工しやすいというメリットがあるため、細かな治具を作る際に重宝します。
いずれも正解はないため、実際に手を動かしてみて自分に合った樹種を探し出してみてください。