ボディとネックを接着した段階で、木工としての工程は殆ど完了となります。ここからはニスを塗る工程に入りますが、その前に「ボタンの仕上げ」と「ボディ全体のクリーニング」を行わなければなりません。
今回はニス塗り前の最終調整となる「ボタン形成・仕上げ」「本体のクリーニング」について解説していきます。
ボタンの形成
ネックとボディを接着させた時点では、裏板ボタンの部分は大雑把に削られているだけの状態です。このままではニス塗りに進むことができないので、まずはボタンの形成とネック裏面の仕上げを行います。
工程1. ボタン側面を平らにする
作業手順としては、まずボタン側面の余分な部分を小ノミで削り落とします。この際に横板や裏板のエッジを傷つけないように気をつけてください。削りすぎないようにノミの角度を工夫しましょう。
余分な部分を削り落としたら、ヤスリで指板からボタン側面までを平らにします。難しい作業ではないので、落ち着いて綺麗に仕上げましょう。
工程2.ボタンの寸法決めとと余分な木材のカット
側面を平らにしたら、パーフリングから1.6mmの位置に点を打ちます。参考にするモデルによって長さは変わりますが、1.6mmを基準にすると良いと思います。
点を打ったら「点」を頂点とし、1円玉を使ってボタンの円を描きます。原始的な方法ですが、割と綺麗な円が描けるのでオススメです。それ以外の方法としてはコンパスを使ったりもします。
ボタンに余分な部分に多い場合は、糸鋸を使ってカットします。この時にネックの形に沿ってカーブを描いて切り落とすのがコツです。決して直線的に切らないでください。 ナイフやヤスリだけで調整できそうな場合は無理に糸鋸を使う必要はありません。
工程3.ネックとボタンの形成
切り終えたら実物や書籍を参考にボタンの形をナイフとヤスリで仕上げていきます。この際に勢い余ってカーブする部分を抉りすぎないように注意してください。
ネックのカーブから直線にはいる箇所の太さは19.5mm〜20.0mmです。この太さを下回ることは絶対に避けてください。
この寸法よりも細くなると、弦を張った時のテンションに耐えられなくなってネックが指板側に倒れてきてしまいます。
ネック全体にヤスリをかけて、ある程度整えた状態がコチラ。ポイントは触った時に凸凹していないことです。ネック裏が凸凹しているヴァイオリンはポジション移動がしづらく、弾きにくい楽器となります。
また、形は「かまぼこ形」を意識して、G線側よりE線側を少し膨らませた形の方が弾きやすくなります。
この工程で意識しなければならないのは、「演奏者が演奏しやすい楽器」に仕上げることです。
見た目では分かりにくいですが、この工程を妥協すると楽器としてのクオリティーが下がってしまいます。
工程4.スクレーパーと紙やすり
形を整えたら、ネック背面のカーブから指板の1/3程度までを自然につなぐためにスクレーパーをかけます。指板と木材の境目だけでなく、カーブしている部分から馴染むように広範囲を削りましょう。
また、削りにくいネックとボディの接着部分もスクレーパーで削っておくと良いと思います。
指板付近及び付け根をスクレーパーで削り終えたら、最終的な仕上げとして「紙ヤスリ」で全体を馴染ませます。この際、ネック背面部分だけでなくボタン部分も綺麗にしてください。
工程5.ボタン背面及びエッジ部分の形成
最後にボタンの背面を整えます。工程はヤスリで背面を平らにして、角を面取りすれば完成です。面取りの角度は斜め45度。ただ、ボタンは上の方がやや厚くなっているので、全て平らになるわけではない事に注意してください。ちなみにボタンの頂点の厚みは5mm少し割るぐらいが理想です。
エッジ部分も「ボタンがない」と想定して、自然につながるように整えましょう。表裏全体のエッジを整えた時のように、こちらも斜め45度の角度で削ります。
ボタンの切り込み部分は削りにくいため、ナイフを使って作業してください。
ネック及びボタンを仕上げたら、ペグボックス側面の面取りをします。渦巻き部分からナットまで、約45度の角度で削っていけばOKです。
また、ナットの真上付近は面取りを僅かにしておくのがベスト。G線ペグ(一番下の穴)付近の膨らみから、フェードアウトするように面取りするのがコツです。
クリーニング作業の下準備
ボタンとネックが仕上がったら、クリーニング工程に入ります。
ただ、作業に入る前に「テールピースの穴を広げておくこと」そして「指板外し」を行なってください。
作業自体は難しいことではありません。まず、テールピースの穴あけに関しては専用の穴あけ器でぐりぐりすればOK!ただ、角度に気をつけないと穴が曲がって広がってしまい、のちの作業がしにくくなるので注意してください。
指板の外し方に関しては、ネックと指板の隙間にヘラを差し込んで少しづつ剥がしていきます。普通のヘラでは隙間に入り込まないため、先端を薄く加工しておかなければなりません。強引に外すとネックが破損する可能性があるため、作業は慎重に行いましょう。
なお、作業後はネックにあった替えの木材を接着しておくのが基本です。寸法にあった木材を自分で作成しておくと色々と捗ります。
紙ヤスリを全面をクリーニング
ネック・ボタンを綺麗に仕上げたら、あとは紙ヤスリでヴァイオリン全体をクリーニングします。
とにかく綺麗に仕上げることが大切ですが、最も気をつけたいのはニカワの残り。これを全て取り除いておかないと、ニスを塗った時に色が入らず、目立ちます。そのため、まずは80℃くらいのお湯を染み込ませたタオルで楽器を拭き取ってからクリーニングを行います。横板の側面が残りやすいので、よくチェックしながら作業を行いましょう。
紙ヤスリは#240 #320 #400 などを使ってください。磨きすぎるとニスが乗らなくなってしまうので、#400あたりで止めるのが無難です。
まず表面。表板は杢目に沿って縦に紙ヤスリをかけます。横にかけると細かなキズがついてしまうため、あくまでも縦にかけるようにしてください。また、f字孔のエッジが捲れないように気をつけましょう。
横板は紙ヤスリを折りたたんで、キズをつけないように擦っていきます。エッジをキズつけないように研磨面をエッジに当てないこともポイントです。
裏面は表面とは異なり、杢目を神経質に気にする必要はありません。全面がツルツルになるまで削るのみです。何も考えずに削るとエッジの角を落としてしまうので、そこは注意が必要です。
Cバウツの先端がデコボコしている場合は、スクレーパーを使って滑らかにしましょう。スクレーパーと紙ヤスリを使ってデコボコが一切ない状態になるまでしつこく磨き上げます。
先端の仕上げ段階では画像のように紙ヤスリを丸めて削っていくことで、表面にキズをつけずにツルツルな仕上げにすることができます。
表面・側面・裏面、全て満遍なく削りつつ、エッジの凸凹も綺麗サッパリなくします。この作業はライトで影をつくり、凸凹を確認しながら削ると上手くいきやすいです。この作業はヴァイオリンを置いた方がやりやすいと思います。
ネックに関しては角度をエッジに気をつけながら全てを綺麗に擦ります。コツは左右に差が生まれないようにすること、そして渦巻きの形を変えてしまわないようにすることです。
全体的にツルツルに仕上げたら、細かな棒ヤスリで再度面取りをしておきましょう。
最終段階までくればかなり綺麗な仕上がりとなるはずです。また、面取りが取れてしまった箇所に関しては再度面取りを行なってください。紙ヤスリの作業は別にどの面から始めても構いません。最終的にどこからみても完璧に綺麗な状態になっていればOKです。
細部まで磨いたヴァイオリンはとても綺麗です。納得がいく仕上がりになった時点で、白木ヴァイオリンの完成となります。
クリーニングの工程を終えニスを塗ってしまうと、もう木工工程には戻れないので、クリーニング工程は丁寧に行いましょう。