ヴァイオリン製作の工程で最も難しい工程の一つ「バスバー」の製作。
バスバーは表板を補強する役割と、表板を全体に程よい振動を伝える重要な役割を担います。バスバーの作りが雑だとヴァイオリンは鳴らない楽器となってしまう為、この工程は非常に重要です。
今回は表板製作の締めくくりとして、このバスバーを作っていきます。
工程1.スプルース材を6mm厚に加工する
バスバーはヴァイオリンの表板内側に取り付けられる細長いパーツです。素材は表板と同じスプルース。表板を補強する役割と、表板を全体に程よい振動を伝える重要な役割を担います。
まずはバスバー材をカンナで平らにしていきます。尚、平らにする面は側面(直径が長い面)です。
両側面を平らにして、まず厚みを8mmに設計。もちろん全面均等に削って下さい。
だいたい8mmにしたら、カンナとノギスを使いながら、最終段階の6mmに設計します。6mmの厚さは完璧に整えましょう。
バスバー材を6mmに調整できたら下準備は完了です。
工程2.位置の決定
バスバーはアッパーバウツの縁から40mm、ボトムパーツの縁から40mmの位置に配置されます。ただ、この段階では縁から38mmの位置に印をつけます。理由としては、後に微調整する際”2mm”ほど余裕があると便利だからです。
また、同時にアッパーバウツの写真の位置に点を打ちます。1/7は中央から縁までを7等分したうちの一つという意味です。
ボトムパーツにも画像の位置に点を打ちます。こちらも中央から縁までを7等分した位置です。
f字孔の横に打つ点は、駒の大きさによって異なります。
例えば40mmの駒を使う場合は20mm(40mmの半分)の位置に点を打ちます。
41.0mmの駒を使用する場合は20.5mm、41.5mmの駒を使用する場合は20.75mmと駒に合わせた寸法で点を打ってください。
現代で使われる駒について
現代において一般的に使われる駒のサイズは「40.0mm」「41.0mm」「41.5mm」の3つ。
42.0mmもありますが、あまり使われません。
アッパーバウツ、ボトムパーツ、f字孔の横、それぞれに点を打ったら、この3点がちょうど交わる場所を探します。
微調整はありますが、この位置がバスバーを配置する場所となります。
正確には【f字孔の横に打った点(駒の位置)から内側に1mm移動させたところにバスバーが通る】と覚えておくと良いでしょう。正しく配置すれば、ボトムパーツ・f字孔の横の間にバスバーが来ます。
バズバーの位置をある程度決めたら、バスバーの長さを調整します。
この段階ではバスバー材の長さが余っているので、いらない部分は切り落としておきましょう。
切り方はノコギリでギコギコ切ればOK。ただ、短くしすぎないように注意してください。仕上がりの寸法よりも少し長いくらいで切ります。
バスバーの位置と長さを調整したら、ワッシャーを使ってバスバー側面に表板内側カーブの厚みを書き加えます。ワッシャーを車輪のようにバスバー材に密着させ、シャーペンで滑らせれば綺麗に書くことができます。
また、この作業は両面行ってください。表板内部の厚みは場所によって違う為、両面均一にはなりません。
両面の線を書き加え終わりましたら、その線に沿って大まかに豆カンナで削っていきます。両面で高さが違うため、片側が盛り上がった形になると思います。
ここまでできたら、一度バスバーを実際に表板に合わせてチェック。この時点では、ある程度合っていればOKです。
また、この時点でバスバーの位置を完全に決定します。
エンドラインには40mm(38mm)ラインと厚み分の2本の線を加えておきましょう。
工程3. バスバーを固定するブロックをつくる
位置を決めたら、上の写真のような小さな固定ブロックを3つ作ります。人によって数と位置は異なりますが、今回は「1」アッパーバウツ右、「2」f字孔左、「3」ボトムバウツ右に小ブロックを設置しました。
小ブロックの役割はバスバーを固定すること。3つのブロックを設置することによって、バスバーは動かなくなります。
また、このブロックは細かな木材を四角形に切ったものですが、底面には「紙」がつけられていています。(バスバー完成後に剥がせるようにするため)
加えて、ニカワ接着時にバスバーと一体化しない為に、バスバー側の角は面取りすると良いでしょう。
3パーツ分作り終わったら、ピンセットを使ってニカワで接着します。この際、ニカワは「ちょび着け」で大丈夫です。べったり着けすぎると、バスバーとくっつく可能性があります。3つとも綺麗に取り付けることができたら、この工程は終了です。
工程4. 接着面の調整
バスバーは表板を補強し、振動を伝える役割を持ちます。そのため、表板と完全に一体化しなければなりません。
つまり、バスバーは表板内側のカーブと完全に合わなければいけないのです。
少しも間が空いてはいけないため、この作業はかなりの難関となります。
この工程の進め方は非常にシンプルです。まず、バスバーをはめる位置にチョークを塗ります。割とびっちり塗って大丈夫です。
次にバスバーを乗せて、軽く左右にゴシゴシ動かします。すると、表板内側のアーチ合っていない箇所にチョークが付着します。そして、チョークが付着した箇所を削っていくと、徐々にアーチとの誤差が少なくなります。
この工程を完全にピッタリ合うまで繰り返します!
どこかが合ったら、どこかが合わなくなる。削りすぎたら、全体的に削らないといけない。
ひたすら繰り返すことで完成に近づけますが、なかなかピッタリ合わないので、根気のいる工程といえます。
表板に傷をつけないために、チョークは石膏カルシウム製のやわらかいチョークを使うようにしましょう。
作業をする際は上の写真のように、位置ごとに番号を割り当てることをオススメします。番号を割り当てることで、「どこが合っていて、どこが合っていないのか」がわかりやすくなります。
また、バスバーを擦るときはバスバーの左右の端を持って、軽くスライドさせる程度にしてください。中心を強く抑えたり、圧が強すぎると表板の変形によって「合っていないのに無理矢理合わせてしまう状態」になります。
チョークを塗る→削る→確認するを繰り返し、繰り返し、少しの隙間も見つからなくなったら完成となります。
ただ、厳密には微小の隙間があっても大丈夫です。接着するときに張力によって強度が増します。
両端に関しては隙間があるとバスバーが剥がれやすくなってしまうので、可能な限りピッタリ合わせた方が良いでしょう。
ちなみに仕上がりとしては全て均等にピッタリ合わせる人と、両端をあえて浮かせる人がいます。
どちらを採用するかは製作者の好みですが、浮かせる場合は最大で「1mm」程度に留めるのが基本です。
たとえ浮かせたとしてもアーチの形とバスパーはピッタリ合っていなければならないので、押し付けた際にちゃんと隙間がないか確認してください。
最初は全然合わなくても、続けていくうちにだんだんと合ってきます。
コツとしては「両端を削りすぎないようにする」「バスバーの傾きに気を付ける」「表板のアーチの形をよく見る」「両面から確認する」こと。
いくらやっても合わない場合は、バスバーの面がアーチの形に合っていないことが多いです。
慣れるまでは気長にやりましょう。
殆ど接着できる段階まで仕上げたら、最後はスクレーパーで微調整するのがおすすめ。面が綺麗になるので、ピッタリ合いやすくなります。
ただ、スクレーパーに頼りすぎるとバスバーの面が凸凹になってしまうので注意が必要です。あくまでも豆カンナの補助的に使用しましょう。
調整を終えたらチョークを一度拭き取って再度確認。問題がなければ接着をします。
工程5. ニカワで接着 / バスバーの成形
表板内側のアーチとバスバーがピッタリ合ったら、ニカワで接着します。接着する際は専用のクランプを5~6個使用し、表板のアーチが傷つかないようにプラスチックでアーチを保護しましょう。
バスバーは端から端まで隙間なく接着しなければなりませんが、とくに両端はしっかりと接着するようにしましょう。端に隙間があると、そこからバスバーが少しづつ剥がれてしまいます。
バスバーの形成
接着が完了し、時間をおいたらバスバーの完成系に向け、形を整えます。
まずは下準備として、バスバーを固定していた「1」「2」「3」の小ブロックを外します。
ノミでブロックを壊して底面に貼った紙だけの状態にして、残った紙は濡らしてスクレーパーで削れば綺麗に取り除くことが可能です。
筆で紙部分を湿らせる時に、バスバーは濡らさないようにしてください。
スクレーパーでこすれば簡単に紙は剥がれます。
小ブロックを剥がしたら、アッパーバウツとボトムパウツの縁から「40mm」のところに印をつけます。この位置がバスバーの端の位置となります。
端の位置に印をつけたら、駒が立つ位置(f字孔の切り込みの位置)に印をつけ、そこを頂点とします。
頂点を決めたら、その位置からボトムパーツ及びアッパーバウツの長さを4等分にして、それぞれの箇所に印をつけます。
頂点の印を含めると、それぞれ印は「9箇所」となり、5箇所目を頂点とした山形に調整します。
ちなみに、それぞれの印の寸法は上記の通りです。(表板の厚みや材質によって調整する/最近は頂点12.0mmにすることが多い)
Vを頂点とし、徐々に薄くなっていきます。
バスバーの天面に印を書いた後、側面に上記寸法の点を打つと作業しやすいです。
側面の点を全て繋げると、なだらかな山の形になります。
バスバー側面に線を書くときは、「内側」ではなく「外側」に書いてください。
内側に書くとバスバーの高さを削りすぎてしまう可能性があるため、基本的には外側に書いた線を基準に削ります。
バスバー側面にフリーハンドで山形のラインを書き込んだ状態がコチラ。
あとは、この山形のラインに沿った形に豆カンナで調整します。ただ、最終的に微調整が入るため、線のちょい上ぐらいまでに止めておくのがベストです。
ある程度削れたら、ここから最後の微調整を行います。
工程6.完成に向けて微調整
バスバーの完成系は丸みを帯びた形です。現状のバスバーは角ばっているので、側面を含む全ての面をナイフで丸く整えます。
バスバーを調整していくと徐々に細くなりますが、どのみち完成系は細くなるので気にしないでOK。
「ガリっ」と行き過ぎない&表板をキズつけないように全体を丸く整えます。大体のデザインが整ったら、最後に紙ヤスリをかければ綺麗になります。
紙ヤスリをかけるとかなり綺麗に仕上がります。粗めと細かめの2種類を使うと良いでしょう。
尚、端は40mm位置で終わるように斜めに切り落とします。この調整が出来上がったら、長かったバスバー製作も終わりです。
完成!ただのスプルース材がヴァイオリンの音を決めるバスバーへと進化しました!
難関工程バスバーはこのような流れで作られます。
バスバーは表面には見えないパーツですが、音に大きな影響を与える非常に重要なパーツです。表板内側アーチにぴったり合わせるのは難しく、心が折れそうになりますが、この部分を妥協したヴァイオリンは良いヴァイオリンとはいえません。
何回も作業を繰り返して、コツを掴みましょう!