厚み・幅を出し、横板をべンディングアイロンで接着したら、「ライニング」の製作を行います。
ライニングは「横板」の内側に密着させてつける細い板のことで、このパーツをつける意味は「側板の補強」「表板、裏板の接着面積を広げる」など様々な理由があります。
この記事では横板製作の最後の工程ライニングの製作・接着について解説します。
ライニング製作の予備知識
ライニングは目に見えないパーツではありますが、あるとないでは耐久性が大きく異なります。
横板に沿うかたちで作られるため、基本的な作業工程は横板の時と一緒です。
板を削り出して、厚みを整えて、最後は曲げます。
パーツは横板の時と同じく6パーツ製作しますが、表裏どちらにも取り付けする為、実際には計12パーツが必要です。寸法は製作者やモデルによってマチマチですが、今回は厚さ2mm・幅8cmのライニング材にしたいと思います。
ライニング材の削りだし
まずは材料を削ります。堅い木だったりすると曲げづらい・削りづらいといった問題が起こるから材料としては使うのは基本的にはスプルースです。板の幅が20cmほどある板を「表と裏面」を綺麗に整えつつ2mmの厚さに均等に削ります。
厚さ2mm未満の使えない部分はこの時点で切ってしまいます。
厚さを2mmに整えたら、削りやすい綺麗な方の側面をカンナで綺麗に整えます。
側面を整えたら横板をカットした時と同じ要領で「ケビキ」を1mm余裕をもたせて9mmにセットし、表面、裏面から擦っていき、切断します。そうすることで「1つの板」から「2枚」のライニング材を作ることができます。その後綺麗に8mmに調整します。
6つの板を同じように2パーツに切断し、整えると計12パーツのライニング材が完成しました。
ライニングの溝掘り
完成させたライニング材を横板(ボディ)に取り付けます。横板に隙間なくライニング材を配置する為には、ブロックに切れ込みを入れて横板と密着させることが重要です。
Cバウツに溝を作る
まずはCバウツ(Cカーブ)の部分から。ブロック材に沿うように切れ目を入れ、くり抜くのですが、まず鉛筆で横幅2cm・深さ7mmほどの切れ込みを入れます。
ライニング材がちょうどハマるようにする為の切れ込みなので、横板に沿うように、そして横板を削らないように鉛筆で描いたラインを切り抜きます。
まずは縦の切り込みをカッターで入れます。この際深く掘り過ぎないことがコツです。あくまで7mm目安で切っていきましょう。
縦の切り込みを入れたら、あとはこの「ノミ」で掘っていきます。向きは画像のように上が長い状態で使うのがポイント。先に幅の部分に切り込みを入れてから、7mmの深さに合わせて掘ります。
掘り進めると、このようにライニング材がはまるスペースができます。これでCバウツの差込口が完成しました。
Bottom・Topバウツの切り込み
Bottom・Topバウツの切り込みはCバウツとは違い、三角に切り込みを入れます。
Cバウツ側だけ切り込みを入れれば大丈夫なので、嵌ればOK。BottomとTopのブロックは長方形で丈夫なので、そのまま何もしません。
綺麗であることに越したことはありませんが、この程度の切り込みで問題はありません。
アイロンでライニング材を曲げる&接着
ここまで作業を進めたらライニング材をベンディングアイロンで曲げます。曲げ方は横板を曲げた時と同じ要領です。
今回は濡れた布にて蒸気を当てなくても大丈夫です。直接ライニング材をベンディングアイロンに当てて、曲げていきます。
Bottomバウツ、Topバウツにちょうど合うよう、若干緩やかな弧を描くように曲げます。これを左右、計6パーツ作ります。画像にはありませんが、Cバウツも一緒に形に沿うように曲げます。
Bottom・Topともに左右2パーツ、計4パーツはブロックの切り込みにちょうどハマるようにライニングに”斜めに切り込み”を入れます。また、切り込みの角度を間違えたり、ライニングを切りすぎたりすると、そのライニングパーツは使えなくなります。ちょっとキツいくらいに正確な長さにしましょう。
余った長さを切るなど、微調整を行い、すべてのパーツが完璧にハマればあとはニカワで接着するだけ。完璧にとはいったもの、Cバウツは若干横板とライニングに隙間があるくらいがベストです。
毎度おなじみになってきたニカワ。つける時にはみ出し過ぎないように気をつけましょう。今回はライニング材の外周と横板の内側・ライニング材を入れるための溝にニカワをつけ、素早く接着します。
Cバウツ→Bottomバウツ→topバウツの順に接着
接着の順番はまず「Cバウツ」から。ニカワをつけ、溝にはめ込んだら洗濯バサミで隙間なくCバウツを挟んでいきます。Cバウツの接着が終わりましたら、残りのBottomバウツ・Topバウツも接着し、Cバウツ同様にクランプで挟みます。
接着時の注意点は横板と全く同じ高さではなく、1~2mmほど横板よりライニング材を高く設置しておくことです。最終的に横板と同じ高さに削りますが、削る前に同じ高さにしてしまうと、横板を削ってしまいサイズが小さくなる原因となるからです。
全てライニングの取り付けが完成した状態です。あとは乾くのを待つだけ。片面が乾きましたら、同じようにもう片面もライニングを取り付け、両面が乾いたら完成です。
余談ですが、洗濯バサミは弦楽器製作用にカスタマイズする必要があります。写真左の洗濯バサミは先っぽが丸炒め、ライニングを挟む際に力が均等になりません。対して右の洗濯バサミは先端をフラットにカットしているため、しっかりと挟むことができます。洗濯バサミを購入する際は、形状に気をつけて購入するようにしてください。
また、押さえる力を補強するために、輪ゴム(小)を2つほど巻いて強化しています。
ライニングと横板の間に隙間ができてしまう場合、洗濯バサミのテンションが弱いor横板の曲げ方がテンプレートに合っていないことが多いです。横板を曲げる温度が高すぎる場合も隙間が出来やすいです。(アイロンの温度は120〜150℃ほどが適切)
ライニングの余分な部分を削る
ライニング製作最後の工程として、横板にとって余分な部分を削ります。
まず削るのは接着した時に余分に飛び出させて接着させた1mm。
カンナで横板そのものを削らないように気をつけながら、ライニングの余りを削ります。横板とぴったりになる一歩手前までぐるっと一周削ればOKです。
特に難しい作業ではありませんが、油断せずに作業しましょう!
ちなみに少しサイズの小さいカンナを持っていると作業がしやすいです。
一周ある程度削れたら、あとは大きい紙ヤスリにてライニング材と横板を均一の幅に揃えます。
上下にこすることで、不要な部分が削れていきます。両面が完全にフラットになるまで削る作業を続けますが、もうフラットになっている部分をどんどん削るとどんどん横板の幅が狭くなっていくので注意が必要です。
Cバウツの角を削る
ライニングに関する作業ではありませんが、Cバウツの「4つの角」が不揃いの状態なので、これも調整していきます。
画像の通り、角の部分は板と板が重なっており、完成の形よりも若干長くなっています。これを整えます。
中心線から角までの長さは左右対称・均一にしたい為、コンパスを使い、角の「切りたい位置」にラインを書き込みます。
線を引く位置の目安としては、ストラディヴァリならブロック材から1.5mm~2.0mmほど。デルジェスの場合はモデルによって異なりますが、概ね2.0mm前後であることが多いです。
コンパスにて左右同じ位置にラインを引きました。注意点は側面のラインを引くときは「スコヤ」を使って、ズレないように慎重に引くこと。これを左右均等に4箇所書き込みます。
ラインに沿って角を削る
コンパスとスコヤを使って引いたラインに沿って、ナイフで角を切り落とします。最終的な調整はカンナで行うため、ラインの若干外側を切り落とすのがポイント。
4箇所全てある程度切り落とせたら、あとはカンナでライン丁度に調整します。ここでも削りすぎると左右対称にする為にどんどん両角が短くなる為、慎重に削ります。
削り方としては、作業台に板を設置。横板を乗せて、削りたい部分だけをはみ出させます。こうすることで、Cバウツの先端をカンナで縦に削ることができます。
なお、こまめに切り口を水で湿らせないと、木がめくれてしまうので注意してください。
角の長さを調整したら、最後の調整として「Cバウツ内側」の板を削ります。角が丸いと形としてカッコ悪い為、スクレーパーで角を鋭角に整えていくのがポイントです。
この作業を終えた段階で横板に関する作業はひと段落となります。
ヴィオラを製作する際の厚み
ライニングの厚みはヴァイオリンもヴィオラも殆ど変わりません。素材はスプルースorヤナギ、厚みは2mmです。高さに関しては製作するヴィオラに合わせると良いでしょう。
ヴァイオリンでは8mmが基準なので、ひとまず9〜10mmを目安にしてみましょう。
「ブロック製作」「横板の厚み・幅出し」「ベンディングアイロンを用いた横板の組み立て」「ライニング製作」の4工程を進めていくことで、ヴァイオリンの基礎となる横板が完成しました。
表板と裏板はこの横板をベースに作られるため、どのモデルを作るにしても、ひとまずはこの工程をクリアする必要があります。
木材がヴァイオリンへと姿を変えていく様子は何度見ても楽しいものなので、興味がある方は他の工程もぜひご覧になってください。