ホルンはカタツムリの様な形をした管楽器の中でもユニークな形状を持つ楽器です。
木管楽器や弦楽器と良く調和する柔らかな音色を持つため、管弦楽曲や室内楽曲を中心に幅広いジャンルで活躍します。
今回は管楽器の中で最も万能な楽器である「ホルン」について解説していきますので、ホルンについて知りたい人は是非ご一読ください。
ホルンってどんな楽器?
私たちが普段ホルンと呼んでいる楽器は、正式には「フレンチ・ホルン」という楽器です。
何故フレンチ・ホルンと呼ばれるかというと、英語圏では「ホルン」という単語は金管楽器全般の事を指すため、それらと区別をつける為にフレンチホルンと呼ばれるようになっています。
雑誌やDTMソフトでホルンがフレンチホルンと表記されているのは、そのためです。
ホルンは0.3-0.5mm程度の薄い真鍮素材で作られている楽器で、カタツムリのような形状に巻かれた円錐状の管とロータリー式(レバーを押して演奏)のバルブが複数備えられています。
ベルの部分が横や後ろを向くように作られていることが特徴で、他の金管楽器のみならず、弦楽器や木管楽器とも相性が良く、まろやかな音色を響かせます。
調和に優れた性質をもつためか、金管楽器の中で最も多くの楽曲に採用されており、活躍の場はオーケストラで使われる楽器の中でもトップクラスです。
ホルンの種類
ホルンはトランペットやトロンボーン・チューバといった他の金管楽器と同様に複数の種類が存在します。
大きく分けると「シングル・ホルン」「ダブル・ホルン」「トリプル・ホルン」に分類されますが、割とシンプルに分類されているため、誰でも覚えやすいです。
シングル・ホルン
F管とB♭管が存在するシングルホルンは単一調の管のみによって作られたホルンです。シンプルな構造上、軽く・値段も手ごろなことから一時期はホルンの定番として扱われました。
ただ、F管は操作性の悪さ、B♭管は音色の悪さから、シングルホルンは評判があまり良くなく、現在はF管とB♭管を融合させたダブルホルンが普及したことから過去の産物になりつつあります。
ダブル・ホルン
現在使われているホルンはこのダブルホルンが主流。1本のホルンで2種類の調性を切り替えられるようになった画期的な楽器で、F管とB♭管を組み合わせたF/B♭ダブルホルンが一般的です。
親指のレバーで2種類の調性を切り替える機構となっており、1897年にドイツの楽器製作者「フリッツ・クルスペ」よって作られたとされています。
ちなみに、ダブルホルンにはセミダブルホルンとフルダブルホルンが存在し、フルダブルホルンの方が重量がある代わりにセミダブルホルンよりも若干音色が優位です。
値段に関してもフルダブルホルンの方が高価となっています。
※管の長さや管の迂回方法が異なりますが、見た目や音域はどちらも殆ど変わりありません。
トリプル・ホルン
1本の楽器で3種類の調性を切り替えられるようにしたものがトリプルホルンです。
通常のF管より1オクターブ高い音域を奏でるHigh-F管/F管/B♭管を併せ持つハイブリット楽器ですが、値段が高く、重く、そして音色がパワフルになりすぎたため、一般的に普及はしていません。
ナチュラルホルン
シングル・ダブル・トリプルホルンが開発される前に使われていたホルン。シンプルな作りになっており、バルブがないため、半音階を奏でることができません。
ただ、ベルに入れる手の位置を変えることで、半音階を創り上げることができ、難しいフレーズを奏でなければ、あらゆる楽曲に対応することができます。
ちなみに1814年にバルブ式が誕生するまでは、このナチュラルホルンが使用されていたため、古典派以前の時代に作られた曲はナチュラルホルンが使われることを前提に作曲されています。
現代においてもオーケストラではメインに使われることも多いようです。
ホルンが難しい楽器と呼ばれる理由
オーケストラで使われる楽器において特に難易度が高い楽器はホルンとオーボエだといえます。
これはギネスブックにも載っているので、間違いないでしょう。
では、なぜこんなに難しい楽器として扱われているのかというと、それは音域がとても広いからです。
ホルンの音域は上記の通り。
これはチューバの音域からトランペットの音域までもを含んでいます。
つまり、主要金管楽器の音域を全て一本で表現できるのがホルンなんです!
それだけ音域をもっているのであれば、キーが複雑であるはずなのに、ホルンは3本〜6本のロータリーしか備えられていません。
そのため、唇の使い方や息の吹き方・スピードなど、指使い以外の部分で音程を変える必要があります。
ホルンの記譜について
種類が豊富な上に複数の管がまとめられているホルンは記譜が複雑です。一般的に使われるダブルホルンはF管の移調楽器として扱われますが、E♭管・C管などが使われることもあり、どのように記譜されるかは曲によって異なります。
-移調楽器-
楽譜上の音符と実際出る音が違う楽器。
例えばB♭管(シ♭)の場合、楽譜上の「ド」の音を吹くと、実音はドではなくシ♭が出ます。
作曲家はこの性質を考慮して、その楽器が持つ調性に合わせて記譜をしなければなりません。
inFを例にすると、「ド」の音を吹くと「ファ」の音が鳴ります。例えば中央ド(C3)の音をホルンで吹くと、それよりの完全5度下のF2の音が鳴るわけです。
ホルンの歴史
ホルンは伊:Corno(コルノ)仏:Cor(コール)と呼ばれ、「角」という意味を持ちます。
起源は動物の角で作られた「角笛」にあり、16世紀までは狩猟時の信号用楽器として発達しました。
当時の角笛は『獲物を発見した』ことを仲間に知らせる為に、後ろ向きにベルが付けられていました。現在のホルンの設計は角笛のデザインを大きく受け継いでいます。
また、管を巻き付けるデザインは、これも狩猟の時代に馬に乗る際、管を巻き付けた状態の角笛を肩に担いでいたことが設計の元になったようです。
その後は唇を振動させて演奏するという共通点をもつトランペットと同じような発展を遂げ、18世紀頃にはナチュラルホルンが誕生。
古典派時代の作曲家が活躍した時代に入るとベルの中に手を入れて音程を変化させる「ゲシュトップ奏法」が編み出され、19世紀半ばからはシングルホルン→ダブルホルンと発展を遂げていきました。
ホルンの音色を聴いてみましょう!
チャイコフスキー 交響曲 第5番 ホルンソロ
【ホルン四重奏】花は咲く
「Back to the Future」 演奏:Vienna Horns
最後に
広い音域をもち、他の楽器とも豊かに調和するホルンは様々なジャンルにおいて必要不可欠な存在です。
トランペットやフルートといった主旋律を奏でることが多い楽器に比べると地味な印象を受けますが、実は超難しい楽器だったりもします。
是非この機会に、カタツムリに似た楽器という認識ではなく、金管楽器中でもスペシャリストな楽器であるという認識に変えておきましょう!