「フリッツ・クライスラー」という人物をご存知でしょうか?
クライスラーは19世紀後半から20世紀に活躍したオーストリア出身のヴァイオリニストです。
クラシック音楽史におけるヴァイオリンの名手といえば「パガニーニ」が真っ先に浮かびますが、クライスラーの存在も忘れてはいけません。
今回はクライスラーの生涯を簡潔に解説すると同時に、作曲家でもあった彼の代表的な作品を紹介します。
ヴァイオリンの神に選ばれし神童
クライスラーは医師の息子として1875年にウィーンに生まれた人物です。アマチュア弦楽器奏者であった父の勧めにより3歳からヴァイオリンを始め、7歳でウィーン高等音楽院に入学。同学院にて演奏・作曲を学び、10歳にして首席で卒業します。
また、その後に入学したパリ高等音楽院でも優れた成績を収め、12歳でこちらも首席で卒業。
ヴァイオリンの神に選ばれた「神童」として、圧倒的な才能を見せつけました。
クライスラーの青年期
クライスラーが華々しいデビューを飾ったのは1888年のこと。僅か13歳という年齢でアメリカ ボストンにて初の公演を成功させ、大きな名声を博します。
ただ、その後はヴァイオリニストとしての活動は抑え、医学を勉強高等学校に進学。
20歳のころにはオーストリア帝国陸軍に入隊するなど、クライスラーの青年期はヴァイオリンとは距離を置いた生活を送ります。
早い時期にもてはやされると、中身の薄い人間になってしまうとクライスラーの父は危惧していたようで、若いうちは一般教養も幅広く身に着けて欲しいという教育方針だったようです。
親衛隊将校まで上り詰めた後、クライスラーは軍を退役し、本格的に演奏家として公の場に復帰します。
多少のブランクはあっても天才的な技術は相変わらず健在で、ヨーロッパ各地で行われた公演はどれも成功続き。
24歳の時に行ったベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演をキッカケに、演奏家クライスラーの名を世に知らしめます。
1902年以降は入ってからはロンドンやニューヨークを拠点に演奏活動を展開。
ウィーンのみならず、世界中に名声を轟かせました。
その後、クライスラーは27歳の時にアメリカ人のハリエット・リースと結婚。
公私ともに絶頂期を迎えます。
※リースは非常にシッカリとした人物であり、クライスラーのマネージャーとして活躍したといわれています。ギャラ交渉や雑務を全てこなし、クライスラーを音楽だけに集中させたそうです。
大戦時代の活動と晩年
順風満帆に演奏活動を行っていたクライスラーですが、第一次世界大戦の勃発後は活動が停滞します。
まず、クライスラー自身が軍人として招集されてしまったため、音楽活動どころではなく、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされました。
結果的に大戦では「重症」を負ったことをキッカケに除隊となり、なんとか生還を果たします。
ただ、活動拠点であったアメリカと祖国オーストリアが敵国になってしまったため、怪我が完治した後は思うような演奏活動が出来なかったようです。
その後ラフマニノフと共演するなど、演奏活動は軌道に乗りはじめますが、再び大戦が勃発したことにより、またもや停滞期を迎えます。
しかも今度はナチスによってオーストリアがドイツに併合され、第一次世界大戦よりも遥かに悪い状況に。。
「次に軍に招集されたら今度こそ死ぬ可能性が高い。」
そう感じたクライスラーは祖国から脱し、ニューヨークへの移住を決意。アメリカ国籍を取得し、ヨーロッパから去りました。
しかし運命とは皮肉なモノで、移住の2年前に交通事故に合い、以後クライスラーは視力や記憶障害といった負傷の後遺症に苦しむことになります。
アメリカ移住後も演奏活動は継続して行いましたが、1950年に体調不良から引退。
1962年に心臓疾患でこの世を去りました。
クライスラーの代表曲
クライスラーはヴァイオリニストとして名を馳せましたが、自作曲も残しています。
そのなかでも特に有名なのが「3つの古いウィーンの舞曲」として扱われる「愛の喜び」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」。
この3曲は現代でもヴァイオリン奏者のレパートリーとして親しまれています。
愛の喜び
ヴァイオリンのための小作品。タイトル通り「愛の喜び」を表す爽やかな作品で、クライスラーの作品においてトップクラスに人気があります。
ドラマ「のだめカンタービレ」の第9話で挿入曲として使われたことで、知名度が上がりました。
愛の悲しみ
愛の悲しみは1905年に出版されたヴァイオリンとピアノのための楽曲。「愛の喜び」の対となる作品です。
原曲及びラフマニノフによるピアノ独奏編曲版が4月は君の嘘(アニメ・映画)で採用され、瞬く間に人気曲となりました。
ヴァイオリン奏者のレパートリーとして非常に重要であり、演奏される機会は多いです。
美しきロスマリン
『愛の喜び』『愛の悲しみ』と一連の作品として演奏会に取り上げられるクライスラーの代表曲。軽快な曲調で演奏され、アンコール曲として採用されることも多いです。
最後に
クライスラーは音楽史屈指の天才ヴァイオリニストです。キャリア後期の活動が戦争によって大きく制限された不運な演奏家でもありますが、「録音」というに文明の利器をうまく使いこなすことで後世に名を残した人物でもあります。
3つの古いウィーンの舞曲「愛の喜び」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」はヴァイオリンに持つ者なら知っておきたい名曲なので、聴いたことが無いという方は、是非一度聴いてみてください。