f字孔や駒削りなど、ヴァイオリン製作ではナイフを使うシーンが多いです。よく研がれたナイフを繊細に扱うことで、楽器の完成度は大きく向上します。ただ、製作初心者にとって気になるのは「どのナイフを使えば良いのか?」ということ。世の中には無数のナイフが存在しますが、適当にナイフを選んで良いわけではありません。
この記事ではヴァイオリン製作に適したナイフの選び方について解説します。
ナイフの大きさは「小刀」を推奨
ナイフを購入するにあたって最初に気にしたいのは大きさです。ナイフは用途に応じて様々な大きさがありますが、ヴァイオリンorヴィオラ用であれば「小刀」を選ぶと良いでしょう。大きすぎるとf字孔が切りづらかったり、小回りが効かないなど、扱いづらいです。真っ直ぐなナイフと、曲線を描くナイフの両方を持っていると幅広い用途に対応できるため、2~3本持っておくと良いかと思います。いずれも大きなものではなく小刀を選びましょう。
ヴァイオリン製作に適したナイフは国内外で様々なメーカーから販売されていますが、なんだかんだ日本の職人さんが製作する刃物は質が良いと感じます。どのナイフを選ぶかは好み次第ですが、日本に生まれたからには日本のモノを使いたいという気持ちがどうしても強くなります。ちなみに私が使ってるナイフは兵庫県三木市にある池内刃物さんが製作されたモノです。手頃な価格でありながら、よく切れます。
その他では海外製のナイフを4本ほど使い分けています。
青紙(青鋼)と白紙(白鋼)とは?選び方の基準
ナイフを選ぶうえでもう一つ重要になのが「刃物の材料」です。青紙と白紙は日立金属の開発した刃物鋼の一種「青紙=青鋼」と「白紙=白鋼」のことを差し、どの鋼が使われているかにより、切れ味や使い勝手が変わります。
ヴァイオリン製作に向いている鋼としては「青紙」が推奨されており、ナイフを選ぶ際は青紙を選ぶと良いでしょう。
なぜ「青紙」が良いのかというと、切れ味と耐久性に優れるからです。
日本で作られる鋼はほとんどが島根県安来市で作られている安来鋼(ヤスキハガネ)です。島根県は良質な砂鉄の産出地であり、日立金属株式会社の安来工場にて、和鋼(わこう)の伝統をひきつぎ良質な鋼が生産されています。
青紙(青鋼)とは?
日立金属で作られる鋼の種類としては以下の通りです。
1.青鋼 [青紙](あおはがね)
2.白鋼 [白紙](しろはがね)
3.黄鋼 [黄紙](きがみ)
青鋼は3種類の鋼の中でも最上位であることがわかります。ちなみに鋼を紙と呼ぶ理由としては、鋼は見た目では区別がつかない為、紙をつけて見分けていた時代があったからだと言われています。
素材としての特徴はなんといっても切れ味が良いこと。炭素の含まれる量が多く、耐久性も高いです。
ヴァイオリン製作では固い木材を削るため、刃の切れ味や耐久性が重要となります。愛着を持ってナイフを使い続けるためにも、青紙が使用されたナイフを選ぶと良いでしょう。
青紙の種類
青紙には一号(青一鋼)、二号(青二鋼)と呼ばれる鋼の種類があり、一号の方が炭素やタングステンの量が多くなることから切れ味が良くなります。
ただ、最上位を選べば必ずしも良いわけではなく、グレードが上がるにつれ、研ぐのが難しくなります。(素材が硬いため)
製作者の中には一号を使う人もいれば二号を使う人もいますが、個人的には二号がバランス取れているかな?と思っています。
ちなみに一号の更に上に青紙スーパー鋼が存在しますが、こちらは抜群の切れ味の代わりに凄く研ぎにくいらしいです。
鍛造の入った青紙一号or青紙スーパー鋼は非常に硬く、摩耗に強いため砥石が滑る
白紙(白鋼)とは?
白紙は青紙の下のグレードに該当する鋼です。グレードとしては劣りますが、鋭く切れ込むことができます。ただ、これは料理のときにメリットになっても、木材加工を主に使う場合は良い効果とはなりません。ヴァイオリン製作で使うナイフはどうしても耐久性が重要となるため、白紙は基本的に不向きだと思ってください。
とはいえ、白紙でも一号(白一鋼)であれば青紙二号(青二鋼)に匹敵する硬さをもつナイフもあります。価格も青紙よりも安く購入できるため、コスパ重視で白紙一号を買ってみるのも悪くありません。
初めてのナイフは青紙二号が無難か
弦楽器製作では硬いメイプルや黒檀を削ることがあるため、白紙1号では柔らかすぎる傾向にあります。そのため、安来鋼で作られたナイフを選ぶ場合は青紙二号が無難かと思います。青紙二号は木材の硬さにも負けない耐久性と切れ味をもち、一号ほどの扱いづらさがありません。私も青紙二号を使っていますが、不満を感じたことはないです。
なお、青紙、白紙以外にもステンレス鋼材を採用したナイフもありますが、長く使えるナイフを探しているのであれば青紙のナイフを購入する方が良いでしょう。手作業で作られた一級品を大事に使うことも、製作者にとって大事なことに思えます。