横板の厚み・幅を出したら、次はいよいよ横板をヴァイオリンの形に曲げる作業です。
どのようにヴァイオリンの曲線が作られているか想像しづらいかもしれませんが、実はアイロンで曲げるというアナログな手法を駆使します。
この横板の組み立て作業は「2日」に分けて行われ、Cバウツ(中心のCの形の部分)のパーツを作り、次に上下のパーツの作成を行います。
記事ではどうしても理解しにくい工程にはなってしまいますが、イメージを膨らませていただければ幸いです。
下準備 テンプレートを用意しておく
この工程ではブロックを接着した型枠、およびテンプレートが必要となります。
ノミを使って垂直にブロックを削る作業があるので、作業台の上にまな板などを配置しておくと机を無駄に傷つけることがありません。加えて、シャーペンも用意しておいてください。
6パーツのブロック 表裏面全てにラインを引く
横板組み立ての準備段階として、まずは型枠の半面板(完成元)をブロック材に当てて鉛筆でラインを引きます。
ポイントは尖っている部分(先端)のラインを若干伸ばして引いておくことです。ブロックの表、裏どちらも同じようにラインを引きます。
ちなみに、側面に関しては木目の方向を書いておくと、削る方向がわかるので便利です。この時点で書き込んでおきましょう。
Cバウツ ブロック内側をノミで削る
次は引いたラインに沿って、丸ノミで削っていきます注意したいのは「書いたラインより内側を決して削らないこと」です。削った分は取り返しがつきません。
写真のように、ちょっとずつ慎重に削っていきます。
このブロックに沿って横板が組み立てられるので、側面は凸凹のないよう綺麗に削らなければいけません。
作業のコツとしては上下共にCバウツの形に合わせ、丸ノミで切り込みを入れておくこと。これにより、微調整段階になったときに、これ以上削っちゃいけない箇所が感覚的にわかります。
なお、この工程は「Cバウツの内側4パーツ」だけ行います。Cバウツの外側を削ってしまうと、横板を接着する際の耐久性が下がってしまいます。
横板をアイロンでCの形に曲げる
中央4パーツの内側のブロックを型通りに削り出したあとは、横板を曲げていきます。この作業は「ベンデイングアイロン」という楽器製作用のアイテムを使って行います。
ベンデイングアイロンのスイッチを入れて、温度を上げていきます。温度の目安はアイロンに水滴を落とした時に「ポヨンポヨン」と水滴が跳ねるくらいです。
具体的な温度は120〜150℃
横板曲げ工程1. 横板に水分を含ませる
まず、引っ張り金具(ベルト)の上に横板をセットします。この工具もヴァイオリン製作専用の道具で、主に海外通販で購入できます。次に水で濡らした布を横板全面に当て、ベンデイングアイロンに擦り付けます。
これにより水分の蒸気で木材が柔らかくなり、曲げやすい状態を作ることができます。ある程度湿らせないと横板を曲げる際に割れやすくなるので注意が必要です。
横板曲げ工程2.Cバウツパーツを2つ作る
木材が柔らかくなったら、ベルトに横板木材を乗っけて「ベンデイングアイロン」の丸い先端を使い、少しずつ木材を曲げていきます。
注意したいのは「急に曲げようとしたり」「無理な力が入っていたり」「木材が柔らかくなっていない状態で曲げよう」とすると簡単にヒビが入ったり割れることです。
割れてしまった横板は直すことができないので、失敗すると「横板の購入→厚み出しの工程」を再度行わなくてはなりません。
なお、横板をアイロンで曲げるパーツは全部で「6パーツ」あります。どの横板をどこに配置するかを杢目を考慮してあらかじめ決めておきましょう。
まずはヴァイオリンのCの部分(Cバウツ)用のパーツを2つ作りました。
曲げたり、伸ばしたりを繰り返して「テンプレート」にぴったり合う形に横板を曲げます。
必要ない余分な部分は「スコヤ」を使って真っ直ぐなラインを入れて、カッターで切り落としておきましょう。
曲げたCバウツのパーツがぴったりテンプレートに合っていれば写真のような状態になります。ちなみに完全に合わなくともクランプで挟んだ状態で隙間がなければOKです。
なお、前項のブロック側面を削る工程がうまくいっていないと、この時点で横板とブロックに隙間が生まれてしまいます。
しっかりテンプレートと合っていることが確認できたら、これを左右2パーツ作成します。
この際、画像のような横板を押さえるための当て木を忘れずに用意しておきましょう。
2つのCバウツを作ったら、ブロック材を型枠に接着した時に使った「ニカワ」を再度使い、ブロック材と「C型の横板」を接着します。
工程としては、一度クランプを外して「ブロック材側面+横板の接着面」に素早く「ニカワ」をつけて接着、さらに素早くクランプを再度装着します。「ニカワ」は時間が経つと粘着力が落ちるため「素早く接着」することが非常に大事です。
接着させたくない部分【型枠】には石鹸を塗りたくっておきます。やっておかないと横板が【テンプレートからが取れなくなります。
両サイドの「C型横板」を接着したところで作業は一旦終了。
ニカワが固まるのを待たなくてはならないので、残りのパーツは翌日から製作を行います。
BottomとTopのブロックを削る
ここまでの作業で「Cの型」の部分をニカワで接着できたので、ここからは他の部分、具体的にはBottomとTop部分の横板を接着します。
工程1.ブロックのBottom側を削る
クランプで止めた Cバウツの内側が固まったので、ブロック材のまだ削っていないところが削れるようになります。
Top(上)/bottom(下)のどちらから作業を行っても構いませんが、今回はbottom(下)の接着から行います。
工程はCバウツ内側を削った時と同じで、テンプレートから写したシャーペンの線に沿ってブロック材を左右ともノミで削ります。要領は「Cの型」を削るときと同じ。型に合わせ、内側に食い込まないように木目に逆らわず削ります。
少しづつ慎重に削っていき、ヴァイオリン特有の曲線を出します。シャーペンでつけたラインに沿ってしっかりと削りましょう。まずはこれを両側完成させます。
無事に削れることができたら、同じようにTop側の「Cの型」ブロック材も削っておきましょう。
全部で4箇所のブロック材をこの時点で削ることになります。
工程2.Bottomブロック・Topブロックを削る
Cバウツのブロックが削れたら、次はBottomブロックを削りますここではシャーペンで書いたラインのちょっと手前までノミで削っていきます。
1mmくらいラインからはみ出している状態くらいまでノミで削ってしまいましょう。
その後は紙やすりで「ゴシゴシ」と削ります。コツとしては真っ平らではなく弧を描くように削ることです。平らに削るとヴァイオリン特有の曲線が崩れてしまいます。なお、この作業を行う際は数センチ内枠及びブロックを浮かせてください。浮かせず作業するとブロックが直角に削れず、写真を例にすると底面付近の削りが甘くなります。
また、Bottomブロックが削れたら、TopのブロックもBottomと同じように削ってしまいましょう。
作業は全く同じです。あえていうならTopの方が丸みが強いということでしょうか。削り終えた段階で、Top・Bottom・Cの型の計6箇所のブロックが完成しました。
Bottomバウツ / Topバウツの作成
「ベンディングアイロン」にてBottomバウツ・topバウツを作っていきます。
Cバウツは曲げる角度が急でしたが、Bottom・Topの部分は比較的緩やかです。Cバウツと隣接している部分は若干強く曲げて、あとは緩やかに曲げていきます。
作業の流れはCバウツを作った時と全く同じです。横板を乗せ、この上に濡れた布を当てて「蒸気」で柔らかくしてから曲げます。
ブロック材にちょうどフィットするように曲げました。余った部分はカッターで切り落とします。
次はBottomブロック材の中央でぴったり合うように曲げます。どこを曲げるか考えながら作業しないと、なかなか合いません。綺麗に曲げることができたら、左右それぞれ2パーツ作成しましょう。
2パーツ作成できたら、クランプで止めながら、ちゃんと合うか確認します。どちらの板も中央よりも少し長めに作って、調整しながらカンナで削ります。角度にも気を付ける必要があるので、焦らずに地道な作業を繰り返しましょう。
最終的に2枚の板がぴったり揃えばOKです。
Bottom、Topどちらのパーツも完成させたらニカワで接着します。Cバウツ部分を接着した時と同じく、型枠に石鹸を塗り、横板と引っ付かないようにすることを忘れないようにしてください。
接着する際はトップ及びボトムブロックのはぎ合わせから行い、そこからコーナーブロックを合わせます。はぎ合わせポイントはテープなどを使ってズレないようにすると綺麗に接着することができます。
また、コーナーブロックの当て木は合わなければ加工、もしくは別途作成してブロックにピッタリ合うように調整してください。
ニカワでボトムとトップを接着した状態がこちら。ヴァイオリンらしい雰囲気が出てきたと思います。
なお、ボトムとトップは同時に接着するので、計6つのクランプが必要です。それに伴い各ブロックに当て木も必要となるので、作業を行う前に作っておきましょう。
ブロックを6つ作る→横板の厚みを出す→横板を組み立てる。この一連の工程で横板の基礎的な設計ができました。
あとは、ライニングと呼ばれる補強パーツの作成を終えれば横板の作業はひとまず完成です。
べンディングアイロンは使い方が難しいので、うまくいかない場合は、いらない木材を使って曲げる練習をするのも良いと思います。
コメント
コメント一覧 (4件)
ギターの関場です(いまのところアマチュア(セミプロ?)ですが)。ボトムのところの横板の合わせ、ギターでも同様に苦労する箇所でして、高屋さんがおっしゃる「削りすぎないように」というのは具体的にはどうやっているのかなとすごく気になります。私なら重なったところに鉛筆でマークして一度全部取り外して、スコヤで線を引いて、ブロックプレーンでシュッとやってからもう一度組んでみて、を繰り返すかなぁ。もっとエレガントな方法があればいいのですが。。
もっとも、ギターの場合は隙間ができても象嵌で埋めるとか、木型が外側なので短くなりすぎてもエンドブロックを削って型との間に何か詰めれば接着できるとか、いろいろ復旧の方法があるのですが。高屋さんの型のように内側にピッタリとできていると短くなりすぎたらアウトですから緊張しますね。
関場さんこんにちは!コメントありがとうございます。
削り過ぎないやり方は関場さんが書かれた通り、スコヤで線を引いてブロックプレーンでシュッが現実な気がします。
確かにもっとエレガントなやり方があればと思いますけど、慎重にやるしかないといったところでしょうね。。
コレも本数作って慣れるしかなさそうです!
横板のはぎ合わせに王道はないですか(笑)。アイロンで曲げた後だと余計難しいですよね。直線のよくでた硬い樫の木みたいなブロックで鉛筆に沿って押さえると多少はふちだれするのを防げるかもしれませんが、ちょっと面倒ですかね。
楽器に必要な精度を考えるとシャープペンシルを使っても線の太さが無視できなくて、線の手前でやめるべきか、線の中央まで削るべきか、しょっちゅう頭がこんがらがってくるんです。休み休み、イライラせずにやるしかないですね。プロだと納期とかあって許されないのかもしれませんが。。
確かに太いのを使うとこんがらがってきますよね!シャーペンは製図用の細いものを使った方が良さそうです。これも慣れかもしれませんが。。
何事もやはりイライラせずに平常心で作業するのが大切なんでしょうね。なんだかんだで技術と共にメンタルの強化も必要な気がします(笑)