オーケストラの主役はやはり弦楽器です。
実用的な金管楽器や木管楽器が現れる前から合奏の主役として活躍し、ヨーロッパの音楽を常に席巻してきた歴史を持ちます。
弦楽器には豊富な種類が存在しますが、オーケストラに使われる弦楽器は「ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス」の4種類です。
今回はこの4種類の弦楽器について説明します。
弦楽器について
弦楽器は共鳴胴や共鳴板を備えた楽器に弦を張り、その弦を弓で弾いたり、ピックや指ではじいたりして奏でる楽器の総称です。
中世に流行したリュートやバロック時代に親しまれたヴィオラ=ダ=ガンバ、持ち運びに便利なウクレレ、ド定番楽器のギター、北欧の民族楽器ハーディングフェーレなど、ありとあらゆる弦楽器が世界中に存在します。
ただ、オーケストラで一般的に使われるのは「ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス」の4種類です。
この4種類の弦楽器が主旋律・対旋律・内声といったそれぞれの役割を全うすることで、オーケストラの楽曲は作り上げられます。
ちなみに基本的な構造は4つとも全て同じです。表板・横板・裏板・ネックがそれぞれニカワによって接着されており、そこに指板・弦・テールピース・顎当て・ペグを取り付けることで楽器が完成します。
ただ、コントラバスだけは「ヴィオローネ」という楽器が起源になっていて、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロとは形が異なります。
構造は殆ど同じですが、形や糸巻きに違うため、製作者からするとコントラバスだけは別の楽器という認識が強いです。
少々脱線しました。
本題に戻ると、この4つの楽器は大きければ大きいほど低音楽器になるという特徴があるため、基本的にはヴァイオリンが主旋律、ヴィオラが内声、チェロ・コントラバスが低音旋律、ベース音を奏でることが多いです。
また、ヴァイオリンだけは第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンに分かれ、第1ヴァイオリンが主旋律、第2ヴァイオリンが対旋律・刻みを奏でるケースが目立ちます。
オーケストラに使われる弦楽器1.ヴァイオリン
ヴァイオリンはオーケストラの主役といえる超花形楽器です。第1ヴァイオリンのトップ奏者はコンサートマスター(男性)及びコンサートミストレス(女性)と呼ばれ、オーケストラの顔となります。
コンマス(コンミス)率いるヴァイオリンパートの存在感は格別であり、この印象からヴァイオリンに高いステータス性を感じる人が後を絶ちません。
楽器についても説明します。
ヴァイオリンは4本の弦が張られた小型弦楽器です。、弦はそれぞれ低音から「G, D, A, E」の音に調弦され、低音弦は太く力強い音を奏で、高音弦は細く繊細な音を作り上げます。
表現力の豊かさは弦楽器において最も高く、合奏からソロまでありとあらゆるジャンルに対応する器用さも大きな武器です。
ヴァイオリンの音域と音色
ヴァイオリンの音域はG2-E6。
高音になればなるほど音の煌びやかさは増していき、その美しい旋律は他の楽器の追随を許しません。
ただ、技巧的な高音域はヒステリックな音にも聴こえるため、苦手は人は苦手です。
オーケストラに使われる弦楽器2.ヴィオラ
ヴィオラはヴァイオリンを一回り大きくした楽器であり、顎で楽器を挟んで演奏するスタイルはヴァイオリンと一緒です。しかし、大きさ以外はヴァイオリンと瓜二つなので、音楽に詳しくない人にとっては区別がつかない楽器と思われています。
また、見た目以上にヴィオラの存在感を打ち消しているのが音域。
ヴィオラの調弦は低音からC, G, D, Aの音に調弦されており、チェロより1オクターブ高い音を奏でますが、如何せん中途半端な音域ですので、音色もややぼやけた音が鳴ります。
個人的には甲高くなく、渋さと優しさを両立させた音がするため好きなのですが、表現力にかけるという声も大きく、曲中は刻みを担当することが多いせいか、弦楽器セクションの中では最も地味な存在として扱われています。
ヴィオラの音域と音色
ヴィオラの音域は大きさや個体にもよりますが、概ねC2〜C5です。
高音のヴァイオリンと低音のチェロの間の存在であり、和音構成音の内声を埋めろと言わんばかりの音域をしています。
例:
基本的にクラシックはコード構成音をヴァイオリン・ヴィオラ・チェロで4声に分けます。
例えばCのコードの音「ドミソ」を低音からドミソドの4声分けるとしましょう。
この場合、音のメロディーとなるトップの音「ド」を担当するのはヴァイオリン。低音のルート音「ド」はチェロが担当。ヴィオラ(第2ヴァイオリンも場合により)はその中を埋める形で、ミソミソミソと刻むことが多いです。
つまり、地味。
ただ、ヴィオラがいないと音がスカスカになるので、絶対にいないとダメだったりします。
いなくなって分かる重要な存在。それこそがヴィオラなわけです。
オーケストラで使われる弦楽器3.チェロ
チェロは約120cmという大きいボディを持つ楽器であるため、ヴァイオリン・ヴィオラとは異なり両足で楽器を挟んで演奏されます。
大きさは大きいですが、楽器の構造はヴァイオリン・ヴィオラと同一ですので、両楽器のサイズアップバージョンがチェロという認識で大丈夫です。
チェロの調弦は低音からC, G, D, Aに調弦されます。これはヴィオラのちょうど1オクターブ下です。
深みがあり、ホールに豊かに広がる暖かみのある音色は誰にでも愛され、音だけでいえば弦楽器セクションの中で最も人気のある楽器といっても過言ではありません。
チェロの音域と音色
チェロの音色は男性の肉声に極めて近いと言われ、優しく包み込んでくれるような安心感を与えます。
ヴァイオリンのような煌びやかさはありませんが、落ち着きのある低音旋律は聴く人に「癒し」をもたらします。
ちなみに日本人はかなりチェロ好きであり、奏者人口はヴァイオリンの方が多くとも、一番好きな弦楽器の音色を問われるとチェロと答える方が多いです。
私はヴァイオリンを製作していますが、ヴァイオリン属の楽器で最も好きな楽器はどれかと問われたら、「チェロ」だと即答します。
尚、チェロの音域は、3オクターブ前後(C2-G4)となっています。
ハーモニクスという手法を用いて低音楽器とは思えない高い音を出すことが出来る為、ヴァイオリン・ヴィオラよりも広い音域を演奏することが可能です。
youtube等でチェロによる1人多重奏をアップしている人が多いのは、音域が広いからでしょう。
オーケストラで使われる弦楽器4.コントラバス
コントラバスはチェロよりも更に大きく、全長約180cmもある大型楽器です。持ち運びが非常に不便であることから、あまり人気のある楽器ではありません。
どちらかというと、オーケストラよりもジャズベースとしてジャズで活躍している印象があります。
コントラバスはヴァイオリン・ヴィオラ・チェロとは若干形が異なりますが、4弦が張られる楽器であることには変わりなく、低音からE, A, D, Gに調弦されます。
基本的にチェロと同じ動きをして低音を支えることが多く、ピチカート時には迫力のある低音を響かせます。
ソロを奏でることが殆どないため、まさに「縁の下の力持ち」といった楽器ですが、オーケストラに必要不可欠な存在であることは間違いなく、特にドイツ音楽のような重厚な音楽を奏でる際に真価を発揮してくれることでしょう。
コントラバスの音域と音色
コントラバスはチェロよりも更に低音を担当します。
太く力強い音を奏でますが、単独では乾いた音になりがちですので、オーケストラにおいてはチェロと重複した音域を奏でることが多いです。
ただ、手首や弓の扱いによって柔らかな音を出すことも十分可能。見た目は不器用そうに見えますが、ジャンルによって柔軟な対応ができる器用な楽器だったりもします。
コントラバスの音域は大きさや楽器によって異なりますが、概ねE0-C3。
記譜はチェロと同じくヘ音記号が使われますが、実音は記譜よりも1オクターブ低い音が鳴ります。
オーケストラで使われる楽器5.ハープ
主要4種の弦楽器からは外れますが、ハープもオーケストラで使われる弦楽器です。誰もが知っていると思いますが、弓を使うのではなく、指で弦をはじくことで音を奏でます。
現代のオーケストラで使われる大きいハープは「コンサートハープ」とよばれるタイプで、7本のペダルを足元に配したダブル・アクション・ペダル・ハープが主流です。
このハープは47本の弦とペダルによって全音階に対応することができます。
ピアノと並び超万能楽器といえますが、ペダルアクションは瞬時に切り替えが効かないため、半音階や転調の連続は苦手です。
ちなみに弦が多く識別できないため、各オクターブのド(C)の音を赤色、ファ(F)の音を青色としています。
ハープの音域と音色
ハープの音域はダブル・アクション・ペダル・ハープであればC#0〜G♯6。
6オクターブ半もあります。
音色に関しては非常に柔らかく澄んだ音です。
人間にとって聴きやすい音程であり、弓を使わないため摩擦音がなく、耳障りではない音であることも特徴となっています。
オーケストラではジャンルによって様々な活躍を遂げますが、基本的にはグリッサンドにて曲に優雅なアクセントを加えることが多いです。もちろん、ハープ協奏曲といったハープ主役の楽曲では、そのポテンシャルをいかんなく発揮します。
最後に
アコースティック楽器を使う音楽ジャンルは無数に存在しますが、オーケストラはヴァイオリン属の弦楽器が主役となる「音楽の最高峰」です。これ程までに華やかで美しい音楽は他のジャンルでは聴くことができないと思います。
ただ、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスが奏でるハーモニーの美しさはいくら御託を並べたところで実際にホールでそのサウンドを聴いてみなければ分かりません。
現在はクラシック音楽のみならず、ポピュラー音楽やゲーム音楽のコンサートも盛んに公演されていますので、少しでも興味があれば、是非足を運んでみてください!
もしかしたら弦楽器の魅力に取りつかれてしまうかも知れませんよ?