ブロック製作から始まり、横板・裏板・表板・ネックという順番で仕上げてきたヴァイオリン1作目。
ここからは遂にニスの工程に入ります。
ただ、ニスに関しては人によってかなり作り方や好みに差があるため、当記事は参考程度にご覧ください。
木工は人によって多少作り方の違いがあっても概ね誰でも似たような工程を経てきたと思いますが、ニスは使う材料や塗り方が千差万別なので。
ニス塗りの工程1.ステインを塗る
ニスがどんなモノなのか、どんな種類があるのかといったことは後日説明しますので、今回は工程に集中しようと思います。
まず、最初に「ステイン」を塗ります。
ステインは「木目を損なわず」に色素を素地にしみこませることができる木材向けの着色剤です。弦楽器製作者に長く愛用され続けてきた歴史があり、私も今回このステインを最初に塗ります。
ちなみにステインには溶剤の種類があり、大きく分けると「オイルステイン」「アルコールステイン」「水性ステイン」の3種類があります。
どのステインを使うかによって仕上がりに差が生まれますので、この早くも個人差が生まれるわけです。
私の場合
人によって何をどれだけ塗るかは異なりますが、私は今回2種類の水性ステインをつかって着色を試みました。
※水性ステインは浸透性に優れ、美しい木目に仕上がります。
今作はアンティーク仕上げにする予定ですので、ブラウン系/イエロー系(オールド色)の水性ステインを選び、ブラウン系の水性ステインをボディ全体に塗って乾かした後、イエロー系のステインをさらに上塗りしました。
塗り方の順番
ステインに限らず、ニスの工程全体にいえることですが、塗る順番が非常に重要です。
私の場合、横板を塗ってから裏板・表板・ネックの順番に塗っています。
なぜ、横板から塗るのがベストなのかというと、横板から塗らないとテールピース穴付近が塗りづらいからです。
もし裏板や表板を塗ったあとに、この箇所を塗ろうとすると「持つ箇所」がなくなってしまうため、折角塗った場所を触ってしまうことになりかねません。
また、塗り込む際にエプロンや壁とヴァイオリンが擦れないように最新の注意を払ってください。

塗り方のコツ
塗る際にもコツがあります。
コツというか塗り方なのですが、まず横板を塗るときは筆で両側の淵をなぞってから、ゴム手袋をはめた人差し指でその間を埋めていく方法がやりやすいです。
ちなみに筆で全体を塗る人もいますが、私は「手塗り」の方法を取っています。
上の写真のように表板に色をつけている工程です。一応木目に沿って塗っていますが、神経質になる必要はありません。
ただ、どの部分を塗るとしても、以下の2点には気を付けてください。
・塗り残しがないこと
・色ムラを作らないこと
塗り残しがあると、その部分だけ色が付かないため、後に目立ちます。加えて、一部分だけを塗りすぎると色ムラができてカッコ悪いです。
とにかく薄く均等に塗ることを心がけましょう。
横板を最初に塗るのは基本ですが、表板・裏板に関しては大した決まりはありません。
ムラが発生しないように満遍なく全体を塗ればOKです。
注意したい箇所はボタン・および渦巻き部分。この付近はステインを塗りすぎて色味が濃くなる傾向にありますので、意識しておきましょう。
(※)ヴァイオリンの実物を見ればわかるかと思いますが、指板の裏の箇所だけはニスが塗られません。そのため、ボタンと指かけの部分だけを塗って、塗らない部分にふんわりと繋げましょう。
ステインについての知識
ヴァイオリン製作に使う木材は色がついていません。そこでニスを塗って色をつけていくのですが、作りたての白木ヴァイオリンに直接ニスを塗ると、色がかなり薄くなってしまいます。
そこで、ニスを塗る前に木自体に「下地色」をつけることで、自然に色付けができるようにするわけです。
下地色には様々な方法がありますが、今回私は「ステインの重ね塗り」という方法をとっています。
なお、人によっては数ヶ月日焼けさせたりといった方法をとる人もいるようです。
ニス塗りの工程2.目止め
ステインを塗って乾かしたら、次は目止めです。
目止めはココから更に塗っていくニスがステインまで届かないようにするために行う工程であり、オイルニスに「研磨剤」と「乾燥活性化剤」を混ぜ、木の目を埋めます。
この目止めは非常に重要で、目止めをしないとニスが過度に木に染みこんでしまい、ムラだらけの作品が出来上がります。
塗り方自体はステインを塗った時と同じなので、「横板→裏板→表板→ネック」の順に塗り込んでいきましょう。
この工程で塗るのはステインではなくオイルニス。ペーストはかなりドロっとしていていて、塗った時にベタつきがあります。
そのため、ステインを塗った時よりも薄く塗る事に神経を注がなくてはなりません。
というのも、オイルニスをつけすぎて玉になってしまうと、その部分が固まってしまい、取れなくなってしまうからです。
適当に塗っていくのではなく、一カ所一カ所丁寧に攻めていくのがポイントとなります。



また、ネック部分に関してですが、渦巻き部分・ペグボックス内は筆、その他の部分は指で塗っていきます。
筆で塗る事になる渦巻き部分はどうしても濃くなりがち。ニスをつける量は気持ち少なめで構いません。
また、この際に指板の裏まで塗らないように注意してください。
目止め(ニス)の調合
目止めは3つの薬品をヘラで混ぜたモノを使います。
先ほどさらっと紹介しましたが、混ぜるモノは「オイルニス(バーニッシュ)」「研磨剤」「乾燥活性化剤」の3つ。どれをどのくらい混ぜるかは厳密に定められてはいないため、ある程度経験&勘で混ぜます。
最初にオイルニスをパレットに乗せ、その後研磨剤を入れ一度よく混ぜます。
そして混ぜたペーストに乾燥活性化剤を10滴ほど入れると写真のような「目止め用」ニスの出来上がりです。
ちなみに、このニスは顔料が着色はしているモノではありませんが「透明無色」ではありません。
それに割と「粘り気」があります。
オイルニスで気をつけたいこと
ニスは大きく分けて樹脂をアルコールに溶かすだけのアルコールニスとオイルを使ったオイルニスが存在します。オイルニスの方が少ない工程でニス塗りを行うことができますが、いかんせん油なので「絶対に火を近づけてはいけません!!」
万が一のために消火器を用意したり、可能なら作業を屋外で行うといった対策をとったほうが賢明です。
ニス塗りの工程3.ヤスリ掛け
目止めをして乾かすと、ヴァイオリンの表面がザラザラしていることに気づきます。
これは目止めを調合したときに入れた乾燥剤によるものであり、次の工程に進む前にザラザラを取り除く作業が必要です。
※乾燥剤を入れすぎると水分を含ませないと取れない粉が浮かぶ。
ザラザラを取るための作業としては紙ヤスリでヴァイオリン全体を擦ります。
ただ、紙ヤスリが荒いと折角塗ったステインや目止めまで落としてしまうことになるので「3000番」というかなり細かな紙ヤスリを使っていきます。
この工程の注意点は擦りすぎないこと!
神経質にザラザラを落とそうとすると擦りすぎてしまいがちですので、あくまでも優しく、そしてある程度落としきれたら作業をやめましょう。
これまでの工程を終え、余りにも目立つ色ムラ・ザラつきがなければ次の工程へと進みます。



ニス塗りの工程4.ニス塗り
ここからはニスを塗っていきますが、最初に塗るのは透明ニス。
色を付ける前段階として、透明ニスを再び一周塗り込みます。
ただ、前回の目止めとは異なり、調合時に乾燥剤は入れません。
「横板→裏板→表板→ネック」の順に塗りこむという王道パターンはここでも健在。
満遍なく塗り込むことができたら、再度乾かします。
ちなみに、この工程は乾き具合や塗り方によって1回で済む場合もあれば、2回行う必要が出る場合もあります。
私は微妙にムラがあったため、1回乾かした後に3000番の紙ヤスリで表面のツブを削り、再度塗って乾かしました。
ニス塗りの工程5.ニス塗り 色付け
色付けなしのニス塗りを1回〜2回繰り返したら、いよいよ色を付けです。
冒頭でも触れましが、この色付け方法は本当に国や地域・人によって大きく方法が異なり、色の好みも違います。
そのため、自分自身で個性を見つけなくてはいけません。



赤くしたいのか、ブラウン系を強く出したいのか。それともイエロー系の色味を強くしたいのか。
色を混ぜながら、ヴァイオリンの色味を少しづつ決めていきます。
ニス色塗りの推移
色塗り一回目。ゴールド系の色味が強くなってきました。まだまだ色は薄いですが、高級感があっていい感じです。
ただ、ニスのみを塗っていた時と比べるとムラが出やすいため、塗る工程の難易度が上がっています。
裏板もちゃんと綺麗にゴールド風味に塗れています。中幅の杢目もクッキリ出ていて良い感じです。
ゴールドカラーヴァイオリンも素敵だったので、もう塗るの止めようかと思いましたが、さすがに薄すぎだったので、その後もう1回ニスを重ねました。
ニス色付け2回目。
かなり赤みが強くなりました。写真の撮り方が悪かったせいかツートーンに見えますが、実際は下半分の色味が全体に広がっている感じです。
裏板はこんな感じです。最初はかなりイエロー系だったのに、かなりオレンジが強くなっています。
私はオレンジ色が強い楽器が好きなので、結構うまくいったといえるのではないでしょうか?
本当にムラがあるのかもしれませんが、いずれにせよ写真の撮り方は工夫しないといけないと思いました。ニスの表面がテカテカしているので、太陽光によって色が変わります。



ニス塗り完成!
3回のニス色付け工程を終えたヴァイオリンがコチラ。
表板はこのような色味になりました。太陽光とカメラの関係上、少し赤みが強いです。
裏はこんな感じ。今後はいかに写真を実物に近づけかも課題となりそうです。
ちなみにニス工程の締めとして、色付けを終えたら最後にニス(色を混ぜない)を塗って層に蓋をします。
この写真はその際にニスを塗った時の写真ですが、先ほどの写真と全然色味が違いますね。。
今回のニス塗りは「ステイン2色塗り→目止め→ニス塗り×2→ニス色付け×3→ニス塗り」という工程を経て完成しました。
少々のムラができてしまったこと、一部が濃くなってしまったという反省点はありましたが、概ね自分好みの色にできたので、そこは満足しています。



次の工程と全体の工程表はこちら




コメント
コメント一覧 (2件)
弦楽器についてネットで探しているうちに辿り着きました。2年以上一台のバイオリン製作を続けているようで、素晴らしいの一言です。
自分は地方に住んでおり周りに製作教室もなく、完成まで数百時間かかるハードルの高さゆえ、興味を持っても手を出せずにいます。そんな時間があったら楽器を弾く練習をした方がいいとも考えたり。
次の楽器用のテンプレートの記事が載っていますが、まだ1号器の話は続くものと期待しています。製作教室に通われていたかと思いますが、これまでどのくらいの費用と時間をかけてきたのか、どんな道具を揃えてきたのか、など伺ってみたいです。記事楽しみにしています。
コメントありがとうございます!
本当はもっと早く作りたかったのですが、最初の一本目だとなかなか^^;
確かに独学での勉強は難しそうですね。
僕自身も習わなければ完成させることは厳しかったかと思います。(今も絶賛習い中ですが)
できる限り初めて作る人でも分かりやすいような記事を目指していますが、実際作業してみないとイメージがつかない工程も多く、やはり敷居が高いと言わざるを得ないでしょうね。。
1号器の話は完成まで続きますので、是非読んでみてください。
ニスの工程に入ると、乾くまで次の作業ができないため、並行して2号器の製作に入ったので、順番が前後しています。
道具に関しては近いうちに記事を作成しようと思うので、よろしければそちらもどうぞ。
ちなみに費用は、結構かかります(笑)